第七章13 フィリアのお手柄……?
「要するに……大食らいすぎて出禁を喰らい、その詫びとして、謁見状を貰ってきたわけか。いたたまれないな」
「同情してくれなくてもいいよ。また新しいケーキ屋さん見つければいいし」
「貴様じゃない。店長に同情したのだ」
にべもなく言い捨てるレイシア。
だが――こればかりは全員見解が一致していたようで、揃って頷いた。
店が破綻することを防ぐための苦肉の策だったのだろう。
その苦肉の策で、大事な謁見状を差し出してしまうのも、正直言ってどうかと思うが……それほどまでに追い詰められていたということは伝わってきた。
しかしフィリアはフィリアで、ただフルーツタルトをお腹いっぱい食べたいというだけだろうし、怒ろうにも怒れない。
レイシアの言ったように、スイーツバカ食いモンスターの被害に遭ったお店に同情するしかなかった。
(ていうか、さらっと「また新しいケーキ屋さん見つければいい」とか言ってたし、次なる被害者が心配だ……)
僕は、密かにため息をついた。
まあ、それはそれとして。
「若干汚れな品だけど、とりあえず謁見状が手に入ったってことでいいんだよね?」
「ああ、そうだな。若干どころか大分汚れな品だが、手に入れたことに変わりはない」
レイシアは、頭を抱えながら頷く。
「ちょっと、なんでそんなテンション下がってるわけ!? まるでフィリアが悪いみたいじゃん!」
フィリアは、風船のように頬を赤く膨らませる。
「いや、フィリアは悪くないよ。悪いのは、細いのに無限にモノが入るお腹だ」
「そっか! ならいい!」
フィリアはけろりと機嫌をなおした。
なんというか……メンドクサイ性格だけど、精神構造が単純だから、ある意味助かる。
(まあ、いろんな手間が省けたわけだし、ここはフィリアのお手柄ってことにしとくか)
僕は、心の中で密かに頷き、フィリアの方を見て微笑みかける。
彼女は不思議そうに、きょとんと首を傾げた。
「ともかく、これでいつでも王に謁見できることになったわけだが、いつにする?」
レイシアは、一同を見回して問うた。
「誰か、都合の悪い日や時間帯はあるか?」
「フィリアはないよ!」
「ワタクシもですわ」
「ああ、俺も問題はねぇぜ」
フィリアとテレサ、ロディは口々に言った。
レイシアの視線が僕に向けられたところで、僕は静かに頷いて返す。
日時においては、誰も不都合はないようだった。
「よし、わかった。では明日の朝、王の元へ向かおう」
「わかりました。でも、王様ってどこにいるんですか?」
レイシアにそう聞いた。
王宮は広すぎる。今まで僕が行ったことのある区域は、全体の広さを考えたら1/10にも満たないだろう。
「王は、王宮メインブロックの最奥に居る」
「なるほど」
僕は、騎士団に入団した際教えて貰ったこの王宮の構造を思い起こす。
メインブロックは王宮の中心にある一番大きな建物だ。
そのメインブロックを囲むようにして、東西南北の四つのブロックが並んでいる。
ちなみに、今いるのは西ブロックだ。
西ブロックとメインブロックを繋ぐ通路を通り、王に謁見するという寸法である。
僕は、心なしか胸が躍った。
王に会うのが、楽しみだ。




