第七章10 王様に会う手段
「マキュリー王ならば、口を利いてくださるだろうな。あの御方は奇妙なほどに懇篤だからな。たまに、それが行き過ぎて焦れったいときもあるが。とにかく、王に会えば、我らの話を聞いてくださるはずだ」
レイシアは、確信を持っているらしく、迷わずそう答えた。
――そうこうしている内に、王宮に着いた。
だだっ広いエントランスを過ぎ、長い廊下へと進む。
そして、無事にいつもの控え室へと帰ってくる。
「おう、お疲れさん。裁判の結果はどうだった?」
部屋の奥で、静かに葉巻タバコの煙を燻らせていたロディが、僕達の帰着に気付いて振り返った。
扉に近い位置には、フィリアがソファの上で丸まって、うとうとと船を漕いでいる。
ロディは部屋の最奥。
妹は部屋の手前。
なんというか……倦怠期の夫婦みたいな配置である。
「とりあえず、最悪の判決は無事逃れたよ。セルフィスさんのお陰でね」
「おう、そりゃ吉報だな。めでたし、めでたしだ」
ロディは葉巻を口から離し、満足げに笑った。
それに合わせて、薄紫色の煙が、彼の口から愉快に立ち上る。
「ところで、二人はなんでそんな離れてるの?」
僕ロディに問う。
別にとびきり仲が悪いわけではないはずだ。
「そこのお嬢ちゃんは、タバコの煙が嫌なんだと」
「ああ、それでか」
「ああ、それでだ。ったく、この奥ゆかしい香りがわからんとは、まだまだ子共だねぇ」
ロディは不服そうに眉を曲げる。
こちらの世界の法律はわからないが……僕にとっての常識は、未成年は喫煙禁止というものだ。
つまり、“子ども、喫煙、ダメ絶対”。
(まあ、未成年で喫煙可能だったとしても……タバコの匂いが苦手なのは、フィリアに賛同するかな)
僕は、心の中で苦笑する。
なぜなら……転生する前の僕は、タバコの匂いが嫌いだったからだ。
お父さんがタバコを吸う度、一目散に離れていた。
僕が、一人懐かしい思い出に浸っていると……不意に後ろのテレサが話し出した。
「あの、レイシア様。先程の件ですが……ワタクシも、王様のところへ頼みに行けるのでしょうか?」
テレサは、おずおずと進言する。
そんな彼女を値踏みでもするように眺めていたレイシアは、難しい顔で答えた。
「どうだろうな。あの王ならば、二つ返事で謁見を許可してくださるだろうが……事前手続きは難しいだろうな」
「事前手続きってなんです?」
二人の方を振り返った僕は、聞き慣れない言葉を反芻する。
「王に合うには、王の許可はもちろんだが、そのまえに指定の場所で、謁見するための手続きを行わねばならないんだ。まあ……簡単に言うとボディチェックみたいなものだな」
「それは、なかなかに面倒くさいシステムですね」
「ああ、全くだ」
レイシアは忌々しげに言った。
そういうシステムがあると、十中八九テレサは王に会うことが許されないだろう。
由々しき事態だ。
「何か、他に手はないんですか?」
僕は、無理だとわかりながら、レイシアに問う。
すると、意外な答えが返ってきた。
「あるにはある」
「ッ!? 本当ですか!?」
僕は、目を輝かせる。
「ああ。謁見状というものだ」
「それは、どういったものなんですか?」
「それはだな――」
レイシアは、謁見状がどういったものなのか、とつとつと語り出した。




