第七章9 テレサの特異性!?
裁判が終わり、僕達は王宮への帰途についていた。
帰途と言っても、王宮と裁判所の建物は近くに建てられており、両方を行き来するのに要する時間は、およそ十分程度。
故に、軽い散歩みたいなものだった。
僕はその散歩道を、軽快な足取りで歩く。
「いや~、よかったですね!」
僕は、横に並んで歩くテレサの方を振り返る。
「ええ。お陰様で助かりましたわ」
当の本人は、にっこりと微笑んだ。
憂いのない、真夏の向日葵のような笑顔だ。
「喜んでばかりも居られないぞ、鞭打ちはキツいという噂を耳にしたことがあるからな」
後ろにピタリとくっついて付いてくるレイシアが、腕組みをしながら脅すようなことを言った。
「そんなにキツいんですか? その鞭打ちって……」
「ああ、そうらしい。これは、昔ヘマをやらかした同僚が、鞭打ちの刑を受けてな。そいつから聞いた話なんだが……撓る鞭で思いっきり背中を打たれるんだそうだ。打たれた後は、数日灼けるような痛みが絶えず背中に走り、痛みがなくなった後もアザは残るらしい」
「う、うわぁ……」
それを想像してしまった僕は、思わず顔をしかめた。
そんなの絶対痛いに決まってる。はっきり言って生き地獄だ。
それに……肌というのは女性の宝物だ。
服で隠れる場所であっても、傷が付くというのは……精神的に相当辛い。
「テレサさん。その……大丈夫そうですか?」
僕は、恐る恐る彼女の顔色を確認する。
「ええ。問題ありませんわ」
しかし、彼女は何食わぬ顔をしていた。
鞭打ち程度、どうということはない。そう言いたげな表情だ。
「むしろ少し楽しみですわ。ワタクシ、そういうハードなプレイ、割と好みですの」
「お、お巡りさんこの人ですー……ッ!」
僕は思わず嘆いた。
発言がド変態だ。
まあ、とにかく。
(本人がそう言ってるなら、別に心配する必要は無いかな……)
むしろ心配するだけ、無駄な気がする。
「それはそうと、後ほどセルフィス様に礼を申し上げなければなりませんわね」
「そうですね。まさか手紙一枚で裁判長の決定を促すとは思いませんでした」
「ああ、それには余も驚いた」
僕達は、口々にセルフィスを褒め称える。
当初、セルフィスにもテレサの弁護を手伝ってくれないか、交渉をするつもりだったのだ。
しかし、国に帰ってきてから一度も会っていなかったために、交渉が出来なかった。
これはもう、レイシアと僕でなんとかするしかない。
そう心に決めて、裁判に臨んでいたから……セルフィスが手を貸してくれたことには、心底驚いた。
それに。
正直、僕とレイシアが一生懸命に弁護しても、裁判長は終始眉をひそめて、判断を渋っていた。
あのまま行けば、規定通りの判決が下されていた可能性も多いにある。
そうならなかったのは、セルフィスのお陰なのだ。
「僕達三人で、セルフィスさんにお礼を言いに行くべきかもしれないですね」
「そうですわね」
「その通りなのだが、王女が今どこにいるのかわからないぞ?」
レイシアは、眉をへの字に曲げていった。
確かにその通りだ。
半年前に彼女が攫われたこともあり、彼女の部屋は別の場所に移されたらしいという情報を、以前耳にした。
二度と攫われるような事態にならないため、部屋の正確な位置は、王家とそれに仕える使用人と言った、数少ない人間しか知らないのだ。
(これは、探すだけでも大変かも)
何か、良い方法はないものか。
「彼女に合わせて貰えるように、頼める人間とか……いませんかね」
「いるぞ。一応一人だけな」
意外にも、レイシアは即答した。
「誰なんです? そんな権限を持つ人って」
「決まってるだろう。アイツのパパさんだ」
「パパさんて、まさか……マキュリー王ですか?」
そんな僕の質問に対し、レイシアは静かに首肯した。




