第七章8 裁判の行方
――会議は、三時間近く続いた。
主な議題は、ざっくりと分けて二つ。
一つは、〈トリッヒ王国〉と〈ロストナイン帝国〉の今後について。
今回の戦いで、僕達は両国の関係不和の元凶であるネイルを下した。
つまり、長きにわたる軋轢も改善の一途をたどることになるのである。
しかし、それは困難な道のりだ。
個人の問題でも言えることだが、関係が壊れるのは一瞬。しかし、築くのは難しく、井多くの歳月と努力を要する。それが、一度壊れてしまった関係であれば尚更のこと。
対応はとにかく慎重を要する。
故に、この一度の会議だけでは今後の方針はちゃんと決まらなかった。
両国の関係改善に必要なことを考えるため、現状を今一度整理しただけだ。
その整理した情報を、今度マキュリー王の在籍する国家会議で提出するらしい。
(え? もしかして、下手したら平気で丸一日かかりそうなその会議に、僕も出席しなきゃいけない感じ?)
内心冷や汗をかいたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
その重要な国家会議に参加できる資格を持っているのは、この場ではロディとレイシアだけであった。
ちなみにだが、気絶したまま野原に放っている野生のネイルは、僕達が寝ている間に帝国へ向かった別部隊が無事に回収。王国へ慎重に運んできたようだ。
今は、王国の地下牢で伸びているらしい。
彼の処遇についても、その場で検討することになる。
そして二つ目は――テレサの今後についてだ。
彼女はほんの少し前まで、この国の平和を揺るがす悪そのものだった。
彼女の手によって殺された一般市民は、決して少なくない。
王宮魔術師団の残党には、得に彼女を恨む者が多いと聞いている。
それは、ある意味当然の話だ。
一週間半前の戦いで、王宮魔術師団は壊滅的な被害を受けた。
生き残った少数の中には……共に死線をくぐり抜けてきたかけがえのない仲間を失った悲しみから、未だに立ち直れていない者もいると言う。
そんな彼女が、裁判にかけられて大きな罪を着せられるのは最早避けられない。
この国の法律に則って彼女を裁くと、無期懲役か、最悪の場合死刑も該当するのだ。
しかし僕は――そうなって欲しくなかった。
もちろん、罪を償わなくていいわけじゃない。
ただ、二度と日の光を見られない。
そんな罪の償い方だけは、して欲しくなかった。
会議中、その考えを思い切って話したら、意外にもみんな賛成してくれた。
――「そうだな。この女はどうにもいけ好かないが、助けられたのも事実だ。裁判には余も立ち会う。なんとか、良い方法で罪を償えるように、裁判官に掛け合おうではないか」――
レイシアは、二つ返事でそう言ってくれた。
△▼△▼△▼
会議から三日後、テレサの裁判が執り行われた。
弁護人として、僕やレイシアが必死で主張を述べた。
彼女が〈ウリーサ〉の長として振る舞っていたのには、致し方ない事情が絡んでいたこと。
彼女と彼女の父は敵対関係にあること。
実際、テレサはレイシアや僕の命を救ってくれたこと。
決定的な証拠を提示しつつ、僕達は裁判長に畳みかけた。
それから、頭を下げて頼み込んだ。
彼女を、無期懲役や死刑とは異なる方法で、罪を償わせてあげて欲しいと。
それでも裁判長は、渋い顔で判決を渋っていたようだったが――程なくして、彼は僕達の主張を呑んだ。
その決定打になったのは、裁判の場に突然現れた王室の召使いであった。
その場違いな男が、裁判長に手紙のような紙切れを渡し、それを読んだ裁判長が目の色を変えたのだ。
手紙の差出人は、セルフィスだったのだ。
テレサを助けて欲しいという旨が書かれた、王女直筆の手紙は、それだけで大きな権力を持つ。
セルフィスの助太刀もあって、無事テレサは無期懲役や死刑を逃れた。
最終的な判決は、以下の通りである。
“テレサ=ラ=ロストナイン。三回の鞭打ちと、今後の王国と帝国の関係改善に、一生を捧げることを、貴公への厳罰とする”




