第七章6 レイシアの再起
暴れるフィリアをなんとか宥めたあと、僕達は騎士団の控え室へと向かった。
途中、廊下の横に据えられた大きな窓の脇を通り過ぎる。
時刻は明朝四時前。
空は薄暗く、立ち並ぶ家々にもろうそくの明かりはない。
国全体が寝静まっている。
静寂を孕んだ街を横目に通り過ぎる。
しばらく歩いて、僕達は控え室に着いた。
三回ノックして入室する。
すると、室内には先客が居た。
「おう、待ってたぜお前ら」
室内の奥へ向かって伸びている長いソファに座って、くつろいでいたロディが、こちらを向いてニヤリと笑った。
「どうだ? よく眠れたか?」
「うん。ぐっすり。天然目覚まし時計の威力も凄まじかったし、ばっちり目も覚めたよ」
「そうか、そりゃ何よりだ」
本気とも冗談ともとれない口調で言った後、彼はテレサの方を向いた。
「お嬢さんの方はどうだい?」
「ええ、お陰様で。よく眠ることができましたわ」
僕の後ろで、テレサは優雅に一礼する。
「そりゃ、そうでしょ? おにいと一緒のベッドで寝て、夢見が悪いわけ無いじゃん」
まだ怒りが収まらないらしく、フィリアは嫌味を言った。
「なに? じゃあ貴様達二人は、昨夜一緒に寝たというのか」
ロディより少し離れた位置に座っていた女性が、不意に口を挟んだ。
それは、レイシアだった。
「レイシアさん。もう起きてて大丈夫なんですか?」
「ああ。心配をかけたな。この通り、もうすっかり元気だ。王女の治療の賜だな」
レイシアは、清々しい表情で言った。
確かに、彼女の肌には傷一つ残っていないし、疲労の色も見えない。
回復してよかったと、心の底から思った。
「そういえば、その王女様は今どこに?」
「ああ、父親であるマキュリー王のところへ行った。もう半年も留守にしていたわけだからな。いろいろと恋しいのだろう」
「そうですか……」
僕は、小さく頷いた。
マキュリー王。本名はマキュリー=ル=トリッヒ三世。
この国のトップに君臨し、セルフィスの実父に位置する人物だ。
僕は実際に会ったことがないが、レイシアの話ではかなり楽観的で軽妙な性格らしい。
(それはそうと、セルフィスさん、無事にお父さんの所に帰れて良かったな)
彼女は、半年近くも神殿の地下牢獄に囚われていた。
その間の心細さと恐怖は、計り知れない。
彼女が無事に待ち人のところへ帰ることができて、本当によかった。
――彼女について気がかりなことは、いくつかあるけど。
「それはそうと本当なのか、カース。コイツと一緒に寝たというのは!」
レイシアは強引に話を戻し、テレサをビシッと指さした。
「え、ええ。本当の話です……」
バツが悪くて、しどろもどろに答える。
この後の展開は、余裕で想像できる。
「ほぅ? これはテレサとじ~っくり話し合う必要があるな」
額に青筋を浮かべ、レイシアはテレサの方へにじり寄る。
「それはフィリアもだよ」
彼女もまた、不服と言わんばかりに表情を曇らせて凄む。
(はぁ~。やっぱりこうなった)
収拾が付かなくなりそうな予感に、僕は肩をすくめるしかなかった。




