第七章1 再会。 うるさい妹
第三部開幕です!
――戦いが終わり、王国に帰ってくる頃には、お日様は空高くにあった。
王国を出てから一日しか経っていないのに、一週間くらい留守にしていたように思えてしまう。
まあ、壮絶な戦いだったし、そう思ってしまうのも仕方ないような気もする。
王国に戻ってきてしばらく歩くと、王宮が見えてくる。
一際高くそびえる異様は、いつ見ても慣れない。
「あ、帰ってきた! おにい!」
ふと、王宮の正門前で、大声で叫びつつ手を振りながらジャンプしている金髪少女が映る。
いつでもどこでもうるさい、愛しの妹だ。
僕が側に近寄るまで待ちきれないのか、フィリアは全速力でこちらの方に駆けてきて――どんっ!
勢いよく抱きついてきた。
僕の首に自身の細い腕を回し、力任せに絞め付ける。
「あいたかったよ! おにぃいいいい!」
「いだだだだ! ぐるじい! 首を絞めるな!!」
感情のままに抱きしめてくるフィリアの手を、なんとか解く。
「ご、ごめん。嬉しくてつい」
「まあ、いいよ。気持ちはわかる。僕も会いたかったし」
「ホントに!? フィリアに会いたいって思っててくれたの!?」
「うん」
「戦ってるときも、殺されそうな時も、ずっとフィリアのこと考えててくれた!?」
「そんなわけないでしょーが」
バカ面でまくし立てるフィリアに、ジト目で言い返す。
戦いの最中も、「フィリア大好き!」とか「フィリアに会いたい!」とか、考えていられるわけがない。
そんなことをするのはたぶん、二度と生きて帰れないと悟りつつも徴兵される兵士くらいなものだ。
「えー、ケチ。フィリアのことずっと考えててよ」
「いやそれは厳しい。脳が圧迫される」
「ちょっと、それどーゆー意味?」
頬を膨らませ、睨んでくるフィリアの図。
やれやれとため息をついた僕の肩に、男らしいがっしりとした手が乗せられた。
振り返ると、いつの間にかロディが横に立っていた。
「よぉ、帰ってきたなカース。お疲れだ」
「うん。そっちもお疲れ様」
一切の疲れを見せず、豪快に笑うロディに、負けじと微笑み返す。
僕やレイシアがテレサと戦っている間、この二人はカモミールたちと戦っていたはずだ。
無事生還し、こうして再び顔を合わせることができた喜びは、大きい。
「ところでだが……」
ふとロディは表情を険しくする。
そして、僕の後ろに立つテレサを、鋭く睨みつけた。
「なぜ、この女が一緒に居るんだ? まるで、「最初敵だったヤツが、共通の敵を得て共闘し、仲良くなってしれっと仲間に加わってる」みたいな状況じゃねぇか?」
「うん。大筋は大体あってる」
「やっぱいつの間にか仲良くなってたパターンか。だがな……」
ロディは、僕の横を通り過ぎてテレサの方に一歩近づく。
「おいテレサ」
「なんでございましょう?」
「カースがお前のことをもう仲間と認めているなら、俺も認めてやって構わない。だが忘れるな。お前は、この国に生きる人間の命を奪った大罪人だ。そのケジメは、しっかりつけてもらうぜ」
ロディは、どこか怒りに満ちた瞳をしている。
流石はロディだ。罪を犯した人間には、しっかりと向きあっている。
普段おちゃらけているから忘れがちになるが、彼も騎士長の肩書きを背負うに値する人間だと思った。
「ちなみに、何をすればいいのでしょう?」
「そうだな……まずは、今夜俺に付き合え。いい酒屋を知ってる」
「「おい」」
その瞬間、僕とフィリアの突っ込む声が重なった。
どさくさに紛れて、デートに誘いやがった。




