表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

175/304

第六章45 一つの時代の終わり。そして、黎明の彼方へ

「終わった……のか」


 しんと静まりかえった世界の中心で、私は呆けたように呟いた。

 馬鹿げた高笑いも、魔術が襲いかかる轟音も、最早聞こえてくることはない。


 そのとき、ちょうど東の空が白み始める。

 異世界だから太陽と言っていいのかはわからないが、前世で見た太陽と同じような光る星が、地平線からまもなく昇ってくる合図だ。


 黎明れいめいとき

〈ロストナイン帝国〉と〈トリッヒ王国〉。

 両国の情勢が悪化する全ての元凶を倒したことで、時代が一つの節目を迎えたのだ。


 これから、二国間の政治関係も、各国の内部構造も、復興の兆しを見せることだろう。

 両国における新たな時代の幕開けには、おあつらえ向きな時間帯であった。


「ようやく。終わりましたわね」


 真横から声がかけられて振り向くと、いつの間にかテレサが横に立っていた。

 

 真っ赤なゴシッドレスがあけぼのの風にはためいている。

 乱れる髪を押さえながら、ぼんやりと白く霞む空を見つめる表情は、吹っ切れたように明るい。


「空が、綺麗ですわね」

「そうですね……夜明けを見るまで、随分長い夜だった気がします」

「本当にそうですわ。壊れてしまう程に、濃密で激しい一夜でしたもの」


 またこれだ。

 ひょっとして、危ない意味に捉えられる発言しかできないのだろうか?


(まあでも、これも彼女らしいか……な)


 私は心の中で苦笑する。


 ふと、テレサはしな垂れかかってきて、私の細い肩に自身の頭を乗せた。

 戦いの後だというのに、ツヤを保っている黒髪が、私の目の前でサラサラと揺れる。


「あの~、お楽しみのところ、本当にすいません」


 不意にセルフィスが後ろから話しかけてきて、私達は振り向く。


「こちらも、終わりました。レイシアさんの応急手当と、魔力マナ回復。ただ、疲れが相当溜まっているようなので、まだ目覚める気配はありません」


 見れば、地面に横たえるレイシアの身体の傷は、すっかり治っている。

 豊かな胸が、穏やかな呼吸に合わせて上下していた。


「セルフィスさんもありがとう」

「いえ。お役に立てて何よりです」


 セルフィスはそう言って、はにかんだ。


「……ところで、テレサさんはいつまでカースさんの肩に寄りかかっているんつもりなんです?」


 セルフィスは、笑顔のまま問いかけてくる。しかし、何故か声のトーンが数段低くなっているから、妙に怖い。


「いつまでって……もう一生離れたくありませんわね」


 テレサは艶然えんぜんと笑い、私の腕に自身の腕を絡める。


「ふ~ん、なるほど。やっぱり私、テレサさんのこと嫌いかもしれません」


 やはり笑顔のまま、辛辣しんらつ)なことを言い始めるセルフィス。

 何やら凄くおかんむりのようだが、せっかく仲良くなった矢先に、仲違いされるのも困る。


「と、とりあえずテレサさんは、離れましょう?」


 私はあわてて、テレサを引っ剥がすのだった。


△▼△▼△▼


「それで、どうやって寝ているレイシアさんを運んで帰るんですか?」


 一悶着ののち、セルフィスは聞いてきた。


「まあ、背負って帰るしかないと思います」

「背負うって、カースさんがですか? 無茶ですよ、お疲れのはずなのに」

「いーや、大丈夫ですよ。人一人を背負うくらい、造作も無いことです。こうして性別を変えれば―《男》―」


 呪文を唱えて、男の身体に早変わりする。


「ほら、こうすれば筋肉モリモリですから、背負って帰るのなんてなんら負担になりません!」


 得意げに言って、セルフィスの方を見て――しまったと後悔した。


「……ぁ、え……。おと、こ……?」


 酸素を求める金魚のように口をパクパクさせるセルフィス。


(ま、まずい! 地雷を思いっきし踏み抜いた! そういえばセルフィスさんは、何故か男の人に対してトラウマを抱えてるんだった!)


 おまけに彼女が僕の男状態を見たのは、これが初めてだったはずだ。

 この状況で、男への性転換……彼女にとっては、精神ダメージの大きすぎる不意打ちだ。


「ご、ごめんなさい! わざとじゃ――」

「きゅぅ~」


 謝る前に、セルフィスは倒れ込んでしまった。


「う、うわぁあああ! セルフィスさんがぁあああ!?」


 私は頭を抱えて叫んだ。


「随分と派手にやらかしましたわね。彼女に何があったのか、ワタクシにはわかりませんが……あとでちゃんと謝っておくことをおすすめしますわ」

「も、もちろんです!」


 彼女に謝ると同時に、どうして男の人を恐れているのかも、聞いておいた方がいいだろう。

 王国に無事帰った後も、まだまだ波乱の展開は続きそうだ。


 僕は、泡を吹いて目を回しているセルフィスと、気持ちよさそうに眠っているレイシアの二人を背負った。


「帰りましょうか、テレサさん」

「ワタクシにとっては、帰るべき国はここですが……付いていきますわ。貴方の国の王様にも、きっちり謝罪を申し上げたいですし」

「良い心がけですね。それじゃあ、行きましょうか」

「ええ」


 互いに頷き合い、私達は〈トリッヒ王国〉への帰途に就く。

 そんな私達の歩む先を、地平線から顔を出しかけた太陽が、優しく見つめていた。


第六章完結です!

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


面白いと思いましたら是非、下にある☆を★に変えてくださると、大変励みになります!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第六章完結おめでとうございます!!!!!!! このハーレムがこの後どのように進展していくのか楽しみにさせていただきます!!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ