第六章42 葉療術の扶け
ドクン。
突如不穏な動悸に襲われ、目眩がしてくる。
(な……これって)
虚脱感に逆らえず、がくりと膝を折る。
この感覚に襲われるのは初めてだが、私の身体に何が起こったのかはすぐにわかった。
「《限界領域》……魔力を使いすぎたかも」
私は、震える唇を噛みしめる。
体内を流れる魔力の残量が少なくなると、身体に異常をきたす。
今までの戦いで、私も少なからず魔術を放ち続けてきた。
体力・魔力共にもう限界だったらしい。
「ここに来て、必殺技を撃てるだけの魔力がないなんて……ッ!」
情けないやら、悔しいやらで、力の入らない拳で地面を殴りつける。
この絶望的な状況を打破し得る最後の切り札も、最早諦めるしかない。
(ごめんなさい……テレサさん、セルフィスさん。みんな……)
私のことを信じて背中を預けてくれた仲間達の顔を思い浮かべると、自然と涙が溢れてきた。
目の前が涙で歪み、闇に吸い込まれるように真っ暗になってゆく。
――ああ、もうダメだ。
どう足掻いても打開できない現実を前に、諦めの念を残し、私の意識は闇の中へと消えていく――
(っ!)
否。
消える直前、暗転しかけていた視界の中に、眩い光が映り込んだ。
それと同時に。
どくん!
鉛のように重たい身体と心に、生気が通い始める。
たちまち堕ちかけていた意識が戻った。
更に、枯れた古井戸に水が注ぎ込まれるように、私の身体が魔力で満たされてゆく。
「なに、この感じ……?」
急速に身体が回復していく、超常現象。
その原因を探って辺りを見回せば、私の周りを金色に輝く木の葉がたくさん舞っている。
「この葉っぱは……まさか」
誰の仕業か悟った瞬間。
私の耳に、優しげな声が飛び込んできた。
「《葉療術―魔力回復》です。限定的にではありますが、十分な量の魔力が回復したはずですよ」
見れば、セルフィスが、テレサの肩に手を置いて傷を治癒しながら、もう片方の手を私の方に向けていた。
やはり、身体の不調が治ったのはセルフィスのお陰だったようだ。
それにしても。
「驚きました。まさか、傷の治療だけじゃなく、魔力の回復までできるなんて」
「魔力回復の技も、治癒魔術の応用ですから。これくらいできなきゃ、王女失格です。でも、褒めて貰えて嬉しいです」
セルフィスは、照れくさそうにはにかむ。
だが、すぐに表情を引き締めて言った。
「お願いします、カースさん。どうか、この戦いに終止符を」
「もちろんです」
私は力強く頷き返し、立ち上がる。
それから、再び起動済みの二つの宝石を、額の前に浮かべた。
(セルフィスさんに回復して貰ったこの魔力……全力全開で使わせて貰う!)
出し惜しみはしない。
ありったけの魔力を込めて、全力の一撃を喰らわさねば、ネイルを倒すなどッ到底不可能だ。
私は一つ深呼吸をして、三つ目の魔術を起動した。
「《珠玉法―紫水晶・霹靂》」




