第六章39 貴方に教わったこと
《過去の回想》
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――時間を少し遡る。
セルフィス王女の救出と、〈ロストナイン帝国〉への討ち入りのため、レイシアと魔術の特訓をしていたときのことだ。
三日間のスパルタ訓練が始まって、二日目の夕方。
その頃には、私は一通りの属性魔術を全て扱えるようになっていた。
「――随分と仕上がってきたではないか」
魔術を使う特訓の最中、不意にレイシアは満足げに微笑んだ。
表情の硬い彼女には珍しく、少しびっくりしてしまった。
「そんなに上達してますかね」
「ああ。余が密かに決めていたノルマを、恐ろしい速度で更新していく。まったく、末恐ろしいヤツだ。はっきり言って、少し妬ける」
レイシアは、嬉しそうな、それでいて寂しそうな表情をする。
例えるならきっと、部活の後輩に追い抜かれて、嬉しい気持ちと悔しい気持ちが入り交じっている状態だろう。
「まさか、たった二日で全属性の魔術が扱えるようになるとはな。恐れ入った」
「いや~、教官殿の指導がわかりやすいからですよ」
「ふん。おべっかを言うな」
レイシアは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
その割に頬が赤くなっているのは、指摘しないでおいた。
「だが、魔術には、使い方次第でまだまだ上にいけるぞ?」
レイシアは一つ咳払いをして、懐から水晶を二つ取り出す。
それらを掌の上で転がしながら、話を続けた。
「たとえば、《重奏》。これは、同種複数の宝石を用いて、魔術の威力を高める技だ。消費する魔力や宝石が増える分、魔術の威力がアップする。《二重奏》なら通常時の二倍、《三重奏》なら通常時の三倍だ。《珠玉法》よりも基礎威力の高い《削命法》に対抗するには、ほぼ必須のスキルと言っても、過言ではない」
「なるほど」
「それから、別のスキルとしては《接続曲》がある」
レイシアは、取り出していた水晶の内一つをしまって、代わりにサファイアを取り出した。
「《接続曲》は《重奏》とは違い、別種の宝石を組み合わせて使う技だ。たとえば、草の魔術と炎の魔術を同時に起動すれば、燃える蔦で相手を拘束することができる。風の魔術と水の魔術を組み合わせれば、激しい大波を起こすことができる。状況と発想次第で、機転の利いた戦い方ができるのが、このスキルの長所だ」
一通り説明したあと、レイシアは不敵に頬の端を吊り上げた。
「それで、だ。もう勘づいているかもしれないが、貴様にはその二つも習得して貰う」
「う゛ぇ!? マジですか!?」
「ああ、マジだ」
ぎょっとして一歩後ずさる私を諭すように、レイシアは頷いた。
「む、無茶ですよ。特訓できるのは、あと二四時間も無いんですから」
「いいや。貴様ならやれる」
何を根拠にしているのかはわからないが、レイシアは確信をもった表情でそう言った。
「今から貴様に《重奏》と《接続曲》の基礎を教える。良いか?」
「全然良くな――」
「まず最も大事なのは、状況に最もあった魔術を瞬時に選び、組み合わせる力だ」
(いや話聞いてよ)
「最適な魔術を最良の方法で起動すれば、最大限の力が発揮され、最高の結果が得られるのだ」
(いや「最」言い過ぎだよ)
いろいろとツッコミどころしかないが、まあこの場は彼女に任せるしかない。
私は黙って、後に続く彼女の説明に耳を傾けたのだった。
その後。
彼女の説明を一通り聞き終えた私は、スキルの指導を受けながら、同時並行で密かに必殺技を模索した。(ちなみに、三日間のスパルタ特訓が終わる頃には、《重奏》も《接続曲》も習得できてしまった)。
必殺技を編み出そうとしたのはもちろん、状況と魔術の組み合わせ次第で、魔術の効果が何倍にも膨れあがることを知ったからだ。
訓練であるが故に、戦闘の「状況」に応じた使い分けの特訓はあまりできなかったが、あらゆる属性魔術の「組みあわせ」を試す特訓は十分に出来た。
そうして私は、最良の組みあわせパターンを幾つか思いついたのだった。
それが、私が見出した、私だけの必殺技だ。




