表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/304

第六章38 最後の打開策

 ズンッ。


 ネイルがそう呟いた瞬間、辺りの空気が数段重くなる。

 そして、ネイルを中心に、特濃の闇が出現した。


「なっ!」

「あ、あれは!」

「そんな……」


 三人同時に声を上げる。

 私達の目は、そのブラックホールにも見える闇の塊に釘付けになっていた。


『はっはっはっは! 刮目かつもくせよ! そして我が絶大なる力の前にひれ伏せ!』


 闇の向こうから、ネイルの高笑いが聞こえる。


(これが……ヤツの奥義!)


 私は闇の塊を見据えて、拳を握りしめた。

 

 夜に存在する微かな光すら吸い取る、完璧な深淵しんえん

 《逆転リヴァースの煌めき(•ド•グロリア)》とはよく言ったものだ。最高に皮肉が効いている。


 グォオオンと不吉な音を上げ、みるみる内に肥大化していく闇の塊。

 一片いっぺんの明かりすら灯さない、べったりとした漆黒の闇が、成長を続けながら私達を呑み込まんとさし迫る。


「《削命法レーベン・ラオベン火炎フレイム三重奏トリプレット》ですわ!」


 そんな中、テレサが高らかと呪文を唱えた。

 煌々と燃えあがる彼女の右腕。

 

「喰らいなさい!」


 右手を大きく三度みたび振るい、高熱の火球を闇に向かって飛ばす。


 オレンジ色の炎は、真っ直ぐに闇の中心へと肉薄し、そのまま闇を払――わなかった。

 闇に激突した三つの火球は、漆黒の中へと引きずり込まれ、あっさりと消滅してしまったのだ。


「くっ! やはりダメでしたわ!」


 テレサは、悔しげに歯がみする。


(テレサさんでも、止められないの……)


 精鋭揃いの王宮魔術師団を、たった一人で壊滅まで追い込んだ、稀代の天才魔術師であるテレサ。

 そんな彼女をして、まったく歯が立たないとは。

 私達は、なんていう怪物を敵に回してしまったのだろう。


 この戦い、もう勝ち目はないのか……?


 肥大化の勢いが全く衰えない闇を見据えて、頭を抱えてしまう。


(どうしよう? どうすれば! この闇の壁をぶち破って、ネイルを倒せるの!?)


 余裕のない状況の中、この劣勢を覆す策を探すが、打開案は腹が立つくらいに浮かばない。


 そうしている間にも、闇はどんどん成長を続け、辺りの微かな光を片っ端から喰らってゆく。

 刻一刻と、破滅の時は迫る。


 そのとき。


(そうだ!)


 唐突に思い出した。

 私は、一つ必殺技を編み出したんだった。


 そのことを思い出すのと同時。

 私の脳裏に、ある日の記憶が蘇った。


 それは、ついこの間の記憶。

 レイシアと魔術の特訓をしていたときのことだ。


(そうだ、私は――そのとき、この必殺技を思いついたんだ)


 迫り来る闇が視界を真っ黒に覆う中、私は目を閉じる。


 周りがあまりにも暗すぎて、目を閉じた方が明るいと感じるのは、生まれて初めてだ。もっとも、この世界に生を受けてまだ二週間ほどしか経過していないが。


 その明るいまぶたに、その日の記憶を投影した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 回想は勝ちフラグとか何とかって 目を閉じた方が明るいっていかにもファンタジーな状況でわくわくします!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ