第六章34 復活のテレサ!
(し、しまった!)
レイシアを置き去りにしてふっ飛んだ僕は、空中で素早く体勢を変え、着地する。
靴底をすり減らしながら勢いを殺して止まると同時に叫んだ。
「―《女》―ッ!」
性別を変更し、流れるような動作で懐から宝石を抜いた。
「《珠玉法―琥珀・光輝》ッ!」
光の魔術を起動し、ネイルめがけて放つ。
鋭い閃光が、迅速で飛翔し――
『ふふふふっ……!』
が、ネイルは勝ち誇ったように笑い、地面に倒れていたものを盾にする。
「なっ!?」
その瞬間、私は言葉を失った。
それは――先程私が手を離してしまったレイシアだったのだ。
「くッ!」
レイシアを傷つけるわけにはいかない!
咄嗟に光の魔術を操作して、軌道をずらす。
間一髪。
眩い閃光は彼女の頬を掠めて、夜の闇に吸い込まれていった。
(……やられたッ!)
私は瞬時に負けを悟って、歯がみした。
こうなった今、ネイルはレイシアの生殺与奪の権を握っている。
私がレイシアを助けようと動くより先に、ネイルは彼女を手にかけることができるだろう。
完全に、してやられた。
『悔しいか? 悔しいのう? まあ、ドンマイってところだなぁ?』
私の心中を悟ったらしく、ネイルはねっとりとした声で、小馬鹿にするような物言いをする。
事ここに至り、私の怒りは最高潮だが――怒りのままに魔術をふるったところで、相手の思うつぼだ。
歯を折れそうになるほどに噛みしめ、ネイルを睨みつける。
これくらいしかできないのが、何よりも悔しかった。
『そこで何も出来ずに見ているがいい。この女が、この世から消えていく様をなぁ……』
ネイルは、左手でレイシアの腕を掴んで身体を引きよせ、反対の手を彼女の額に添えた。
その手に闇色が宿り、どんどんと膨れあがっていく。
どういう攻撃なのかはようとして知れないが、一つ確実にわかることがある。
(レイシアさんが……死んじゃう!)
きゅっと心臓が潰れそうになるほどに締め付けられる。
レイシアが死ぬという絶望と、何も出来ない自分への悲嘆で、心が支配されてゆく。
『安心しろ。こいつを片づけたら、すぐに貴様も同じ場所へ送ってやる』
ネイルは淡々と作業のように告げて、右手の闇を高める。その闇が、レイシアを覆い尽くそうとした ――まさにその瞬間だった。
「《削命法―火炎―流星群》ッ!」
艶やかだが引き締まった声がどこからともなく響き渡り。
上空から、無数の隕石のような火の玉が降り注いだ。
『な、なんだと!』
ネイルは泡を食って、レイシアを突き飛ばし、魔術障壁を頭上に展開する。
「な、何が起きてるんだ……? この魔術は一体」
突然の出来事に、私も呆気にとられる。
そんな私に、背後から声をかける人物がいた。
「何をぼんやりしているのです? 早くレイシア様を助けに行ってくださいませ」
「そ、その声は!」
聞き覚えのある声だ。
反射的に振り返って、これまた驚いてしまった。
先程、ネイルの攻撃にやられて生死・行方ともに不明だったテレサが、佇んでいたのだ。




