第六章27 草の魔術の利点とは
『見事に一杯食わされたが……この次は、そうはいかんぞ?』
怪しく光る目をこちらに向けて、ネイルは話す。
それから、ゆっくりと右手を私達の方に向けた。
「別方向からの攻撃にも注意しろ。余はさっき、まんまと欺されたからな」
「わかりました」
攻撃が、ネイルの右手から飛んで来るとは限らない。
先程のように、背後から襲ってくるかも知れないのだ。
油断なく全方位を警戒する私達を見て、ネイルは頬を吊り上げた。
『ほぅ? そちらも、二度同じ手を喰うつもりはないようだな』
「あたり前だ」
毅然として言い張るレイシア。
『そうか、まあそうだろうな。その様子じゃ、貴様の方はもうとっくに限界を迎えているだろうからな』
「うるさい。余計なお世話だ」
ねっとりと笑うネイルに、すかさず言い返す。
「貴様の攻撃を、これ以上貰わなければいいだけの話だ」
『ふん、本当にそれだけか?』
「なに?」
レイシアの奥底を見透かすような物言いに、レイシアは怪訝そうに眉をひそめる。
『まあ、貴様が万全な状態であろうがなかろうが、辿る末路は変わらない。貴様らが我に殺されるのは、定められた運命なのだからな』
「私達の死期を、勝手に決めないで貰えます?」
私はたまらず言い返した。
こんなイカツイおっさんに殺されるだって? 冗談じゃない。
どうせ殺されるなら、テレサさんのような美女の方がいい。
まあ、どのみち殺されるつもりはないんだけど。
『減らず口を叩くなら、この我を下してみせるんだな』
ネイルは顎をしゃくり上げてこちらを見下しながら、そう告げる。
それから両腕をばっと横に振った。
刹那。
空中に無数の光の弾が出現。
『ゆけ』
ネイルがぼそりと呟いたのを合図に、一斉にこちらへ肉薄する。
「カース、下がるぞ!」
「はい!」
レイシアの掛け声に合わせて、同時に飛び下がる。
「「《珠玉法―翠玉・暴風》ッ!」」
風の魔術を起動する声が重なる。
突風を纏って高速で離脱する私達。
だが、光の弾はそれより速い速度で、しつこく追いすがる。
迎撃するより他に手はない。
「《珠玉法―翡翠・蔦葛―四重奏》ッ!!」
翡翠を空中に置き去りにして、呪文を唱えた。
四つの翡翠から、それぞれ四本ずつ蔦が伸び、計一六本の蔦が光の弾を迎え撃つ。
複数の標的を相手にする際は、一つの魔術触媒で同時に四つの標的を仕留められる、この魔術がベストだ。
一六本の蔦が複雑怪奇な動きでうねり、光の弾を次々と叩き落とす。
ひとまず、迎撃には成功したようだ。
「ネイルは!?」
私は、光の弾が迫ってきた大本の方角を見据えるが、もうそこにネイルの姿はない。
「今度はどこに消えたんだ」
「上だ!」
焦燥の混じった声色で叫ぶレイシア。
反射的に顔を上げると、闇を纏ったネイルが頭上にいた。




