第六章24 破格の戦闘センスを持つ中二病(中年)
「上かッ!」
『正解だ』
ネイルは不敵に笑い、掌に炎の塊を生み出す。
「マズい! 走れカース!」
「はい!」
レイシアの掛け声に合わせて、背中合わせの状態を解除し、それぞれ正反対の方向へ駆けだす私達。
刹那。
ほんの一瞬前まで私達がいた場所に、ネイルの放った火球が着弾した。
轟ッ!
着弾点を中心に紅蓮の炎が舞い上がり、上空に浮かぶネイルを緋色に染め上げる。
「まるで悪魔そのものだな……!」
一定の距離まで離れた私は、ネイルの方を振り返って呟いた。
闇を纏う漆黒の身体を、赤い炎が照らす様は、地獄よりの使者としか思えない。
そんな彼が、ゆっくりと燃えさかる炎の中心へと降下し、音もなく着地した。
『この程度の炎に恐れをなしたか、臆病者共よ……笑止千万だな』
ネイルは挑発するかのように、顎をしゃくり上げる。
その発言が、レイシアの怒髪天を突いたらしい。
「なんだと!? 見下すのも大概にしろ、この中年中二病ヤロウが!」
勢いに任せて、レイシアは呪文を唱える。
「《珠玉法―紫水晶・霹靂―五重奏》ッ!」
次の瞬間、レイシアの投げたアメジストが鋭い光を放ち、紫電に変化する。
(なら私も!)
素早く宝石を取り出し、魔術を起動した。
「《珠玉法―翡翠・蔦葛》ッ!」
空中に放った翡翠が割れて、中から四本の蔦が出現。
レイシアの放った五条の雷閃と、私の放った四本の蔦が、挟撃する形でネイルを襲う。
――が。
『ふぅ……ぬるい攻撃だ』
ネイルは欠伸を噛み殺し、緩慢極まりない所作で、右手の掌を燃えさかる地面に押しつける。
『―《増幅》―』
ぼそりと呟き、地中に向かって風の魔術を放った。
同時に、燃えさかっていた炎が、その余波で搔き消える。少し遅れて、地面にバキバキとヒビが入り、ネイルの立っている地面が割れ砕けた。
割れ砕けた地面の欠片は、地中に放った風の力を受けて舞い上がる。
岩盤や土の塊がネイルの周囲に幾つも浮かび、私達の攻撃をことごとく受け止める。
(なっ! 巻き上げた岩盤を盾代わりに使うなんて!)
想像の斜め上を行く機転に、舌を巻くしかない。
「ちっ。単なる脳筋ではないようだな……!」
『当たり前だ。脳みそまで筋肉でできていたら、〈帝王〉など務まらんよ』
忌々しげに吐き捨てるレイシアに、余裕綽々の表情で告げるネイル。
私達の攻撃を全て捌ききると同時に、ネイルはレイシアめがけて駆けだした。
「ちっ! 来るなら来い!」
レイシアは、新しい宝石を取り出す。
そのまま、いつもの流れで呪文を唱えるために口を開いて――
「ッ!」
レイシアは驚いたように目を見開く。
いつの間にか、彼の姿がまた消えていたのだ。




