第六章19 自動追尾の攻撃
『クソッタレがぁッ!』
ネイルは悪態をつき、転がる勢いを利用して起き上がる。
それと同時。
ネイルの頭上に三つの氷柱が出現。
取り囲んだ私達を狙って、それぞれが独立した動きで接近する。
「くっ!」
私の方に向かって飛んできた一つを、身体を捻って躱す。
(あ、あぶなかった!)
私は、一つ安堵の息を吐き――
安心したのも束の間。
通り過ぎていった氷柱が、くるりと方向転換をして、再び突っ込んできた。
(なっ!)
脊髄反射で首を横に振り、脳天を狙う一撃を回避する。
直線的な動きしかしないことを見るに――どうやら、対象を自動で追うようにプログラムされているようだ。
レイシアから教わったことだが、起動後の魔術を操作する方法は、二パターン存在する。
一つは、任意で魔術を操作する方法。
これは、中級以上の魔術師なら誰もがやることだ。
私とて、レイシアから教わったから、既にできる。
自分の思うがままに飛ぶ方向や速度を操り、敵を翻弄することが出来るのがメリットだ。
反面、複数の魔術を一度に操るとなると、話は変わってくる。
もともと高度な魔力操作と空間認識能力を必要とするのが、魔術操作であり、操る数が増えるほど術者への負担は大きくなる。
それを解消するのが、二つ目の方法である、敵への自動追尾をプログラムしておくことなのだ。
そうすれば、起動後は勝手に敵を追ってくれるため、幾つ魔術を起動しても、術者への負担は少なくて済む。
ネイルが今行っているのは、まさにそれだ。
しかし、そんな良いことづくしに見える自動追尾プログラムにも、弱点は存在する。
それは――
(そんな機械的な動きなら、迎撃も容易いんだよ!)
勝手に敵を追うようにセットされているために、細かな動きの指定が出来ない。
故に、標的を一直線に追う軌道を描くから、攻撃の予測もされやすい。
それが、自動追尾プログラムの大きな欠点である。
私は懐から琥珀を取り出し、続けざまに呪文を叫んだ。
「《珠玉法―琥珀・光輝》ッ!」
一条の閃光が、一直線に突っ込んでくる氷柱のド真ん中を射貫き、粉々に粉砕させた。
「ふっ、やるな。攻撃の弱点を的確に見破るとは、見込んだ甲斐がある……」
こちらを一瞥したレイシアが、満足げにふっと表情をほころばせる。
それからすぐに険しい表情に戻り、彼女を狙う氷柱を見据え、淡々と呪文を紡いだ。
「《珠玉法―水晶・結氷》」
刹那、レイシアも鋭く研ぎ澄まされた氷柱を放ち、付け狙う氷柱と真っ向から激突させる。
衝突した二つの氷は、青白い冷気を放ちながら砕け散った。
「その程度の攻撃なら、見切るに容易い」
決め台詞を呟くレイシアを尻目に、テレサも魔術を起動する。
「《削命法―火炎》ですわ」
轟ッ!
突き出した掌を中心に、炎が渦巻く。
荒ぶる緋色が、肉薄する氷柱を呑み込み、瞬く間に蒸発させていく。
「ふふっ、自動追尾ですか……お父様にしては、芸が無いですわね」
テレサは艶然と微笑み、細い腕を振る。
掌についた火の粉がふるい落とされ、ぱっと闇夜に舞った。
(いける……ッ!)
私は、余裕そうな表情のレイシアとテレサを交互に見て、確信する。
三人なら、あの化け物にも勝てそうだ。




