第六章15 最高の萌えシチュエーション!?
『不可解な……ッ!』
微かに表情を歪めて、ネイルは呟く。
『貴様は確かに、我が炎の直撃を受け、跡形も無く蒸発したはず……ッ! だというのに、何故だ? 何故生きている……ッ!』
ネイルの赤黒い瞳が、僕――カースの方に向けられる。
「いや~そう言われましても。なんかよくわかんない力で奇跡的に助かったんですよね」
『な、なんなのだ! そのご都合主義的な展開は!? 小癪な!』
「いやいや、そっちの方が遙かにご都合主義な設定ですからね? 無詠唱で複数の魔術を同時起動できるとか。近接格闘戦も抜け目ないし。《増える魔術ちゃん》とかいう、水をかけただけで魔術の威力が倍増するチート技持ってるし」
『水をかけて威力増強などしていないと、さっきから言っておろうが!』
目を見開いて吠えかかるネイル。
それをスルーして、僕は強引に話を戻した。
「まあ、兎にも角にも豚の角煮も、そっちがご都合主義チート使えるなら、こっちだって使えていいよね? って話です」
『ちっ、小僧が。調子に乗りおって……ッ』
忌々しげに唾棄するネイル。
おそらく、僕があの炎の爆発から生き残れた原因がわからず、焦っているのだろう。
だが――実際は、ご都合主義的な力で助かったわけではない。
(ホントは、こいつのお陰なんだよね……)
僕は、ポケットから一つの宝石を取り出す。
それは――琥珀だ。
僕は、あのときと同じ方法で、炎の破裂から逃れた。
それは……〈ロストナイン帝国〉の首都〈ディストピアス〉に侵入し、セルフィス王女を助けるために行動していたときのことだ。
僕は光の魔術を使って自身の幻影を生み出し、それを囮に使って、僕自身は守衛に気付かれることなく、セルフィスの囚われている神殿へ侵入することに成功した。
それと同じことを、さっき実演したのだ。
ネイルから完全にマークされ、逃れることは出来ないと悟った僕は、必死に状況を打破する方法を模索した。
そして思いついたのが、光の魔術を起動して幻影を生み出し、ネイルにそっちを追わせるという方法だった。
男状態のままでも、魔術自体は起動できる。
もちろん、威力や精度は著しく落ちるが、威力の高さを望まない幻影では、そもそも関係のない話だ。
故に――迷うことなく、光の魔術を起動。
自身の幻影を生み出し、ネイルにそちらを追わせることに成功した。
それとは正反対の方向に逃れた僕は、炎の破裂からも無事生き延びた。
その後、レイシアとテレサへの攻撃に気を取られている好きに、ネイルの背後へと移動して、不意打ちを仕掛けたという流れだ。
(なんか、光の魔術って使い勝手いいな……)
そう思わずにはいられない僕であった。
と、そのとき。
「カース!」
「カース様!」
駆け寄ってきたレイシアとテレサが、歓喜に満ちあふれた表情で抱きついてきた。
「ちょ、ちょちょ! え!?」
狼狽える僕を差し置いて、両側からぎゅうぎゅうと挟み込むように身体を寄せてくる二人。
てか、柔らかいアレを腕に押しつけてこないで!
「死んだと思ったぞ、この馬鹿!」
「心配をかけないでくださいませ!」
「す、すいませ、ん……」
半泣きでしな垂れかかる二人を、ぎこちなく(なだ)める。
そもそもこの二人、こんなキャラだっけ?
まあいいか、美女二人に泣きつかれるのも、最高の萌えシチュ――
(って、よくなぁあああああああああいッ!!)
心の中で叫ぶ僕。
なぜなら――
『ほぅ? 敵を目の前にして女二人を侍らすとは、余程余裕と見える……』
ネイルがこめかみに青筋を立てて、睨んでいるからだ。
――やばい。
めちゃくちゃお怒りでいらっしゃる。




