第六章13 絶体絶命の二人
《三人称視点》
掲げた両腕に、バチバチと紫電が弾ける。
それ自体は、特になんの変哲も無い、普通の電気――なのだが。
『―《増幅》―』
ネイルがそう言い放った途端、小さな紫電が極太の稲妻となって、空に昇っていく。
それは、空という名の滝を登る、一匹の青龍。
禍々しい破壊力を纏って昇って行った稲妻は、天に一番近い場所で方向を変え、急転直下。
真っ直ぐに地面へ向かって落下する。
その先には、並んで立つレイシアとテレサの姿があって――
「ちっ。あの威力はウザいな……ッ」
「そうですわね……ッ」
二人は脂汗を垂らして、降ってくる厄災を見据える。
「おい、貴様。時間が無いから手を貸せ」
「なんでワタクシが貴方などに……なんて、言っていられる状況ではありませんわね」
レイシアらしくない台詞に、テレサが頷いて返す。
「《珠玉法―金剛石・障壁―五重奏》ッ!」
「《削命法―障壁―五連符》ですわ!」
矢継ぎ早に唱え、半透明の魔術障壁が、二人の頭上に展開される。
数は、五枚の魔術障壁×二で、計一〇枚。
そんな、縦一列に重ねられた一〇枚の障壁に、稲妻が堕ちた。
瞬間、凄まじい衝撃が重ねられた障壁を叩き割った。
しかし、いくらネイルの攻撃といえども、十枚の障壁を全て砕くことはできなかった。
割ったのは最初の数枚だけ。
残った障壁に行く手を阻まれた稲妻は、我武者羅に暴れ狂い、周囲の地面を抉る。
放電により、空間のあちらこちらに紫電が走る様は、まさに地獄そのものだ。
そんな地獄のような状況の中でも、レイシアとテレサは生存可能な空間を作ることに成功し、ネイルの猛攻を耐えている。
『ふん。なかなかやるではないか……』
間一髪で落雷を防いだ二人に、賞賛の言葉を贈りながら――ネイルはにやりと笑う。
『ならば……これはどうかな?』
ネイルは、パチンと指を鳴らす。
次の瞬間、闇夜に舞う蛍のような光の玉が無数に出現。
『行け』
ぴっと指をレイシア達の方に向けた途端、光の玉が一斉に移動を開始した。
闇夜を真横に駆け抜ける光の流星群が、レイシア達に迫る。
「まだ来るのか! 《珠玉法―金剛石・障壁―三重奏》ッ!」
「忌々しい限りですわ……《削命法―障壁―三連符》ッ!」
すかさず前方にも、障壁を重ね合わせて展開する二人。
その障壁に、流星群が幾度となくぶつかっては、霧散していく。
「ジリ貧だな……!」
「ええ、そうですわね……!」
結界に魔力を注ぎながら、二人は苦しげに表情を歪める。
直上から打ち付ける、極太の稲妻。
正面から襲いかかる、絶え間なき光の流星群。
いくら何重にも重ね合わせた強靱な盾とは言え、異次元クラスのネイルの攻撃を受け続けるのは無理があったらしい。
二方向からの絶え間ない攻撃を受け続け、障壁にはヒビが入ってきていた。




