第六章10 増える魔術ちゃん!?
『ほぅ? 言うではないか? ……ならば見せてやるとしよう、我の真なる力を!』
「そう言う場合って、大抵負けフラグですよね?」
『やかましい! 話の腰を折るな!』
ジト目で告げる僕を睨みつけるネイル。
(正直、事実を言ったまでなんだけどなぁ……)
真なる力と言っても、程度が知れている。
おそらく、今までの攻撃に毛が生えた程度だ。
『ではいくぞ』
ネイルは右手を空に掲げ、開いた掌の上に丸い火球を作る。
(ああ、やっぱり大したことないや……)
そう思った矢先。
『―《増幅》―』
ネイルは何やらぼそりと呟いた。
それに応じて、火球に変化が起こり始める。
拳より一回り大きいくらいだった火球が、大気を食い荒らすように肥大化を始める。
五倍――一〇倍――二〇倍。
際限なくふくれあがるオレンジの玉。
「なっ!?」
流石に驚きを隠せなかった。
レイシア達の方を見れば、彼女らもまた、太陽に成り代わっていく火球に釘付けになっている。
そうしている間にも、オレンジ色の火球は大きくなっていき、遂に。
『――五〇倍だ』
ネイルは、地獄の門番のような声色で告げる。
得意げに掲げた右手の上には、巨大な太陽が一つ。
夜を昼に変える、圧倒的な明るさと熱を周囲に解き放っている。
『どうだ? これでも負けフラグなどとほざけるか? ん?』
「くっ!」
したり顔で饒舌になるネイルを、睨みつけることしか出来ない。
完全に目測を誤った。
男であるが故に、威力の高い魔術は使えないと思っていたが――とんだ見当違いであったと思い知る。
(でも、体内に流れる魔力の量が少ない男性に生まれながら、どうしてあれほどの強大な魔術を使えるんだ……?)
どう見たって、テレサを下したレイシアの必殺技、《第九園―堕天の氷塊》に匹敵する威力を秘めている。
しかも、レイシアのように魔法陣の構築に時間を費やしたり、長い詠唱をしたわけでもない。
謎の一節詠唱だけで、炎の玉が巨大になったのだ。
魔力量に優れない男性が放てる魔術のレベルを、優に超えている。
一体何故――?
『不思議そうな顔をしているな? まあ、わからんでもない』
僕の心中を悟ったように、ネイルは言う。
『本来、男の持つ魔力の量は少ない。故に、巨大化させる前の炎が精一杯だ。しかしな、我は魔術の研究をした末にあることを発見したのだ。それこそが、使用する魔力の量を変えずに、魔術の威力を何倍にも増す技。名付けて、《増える魔術ちゃん》だ!』
「なっ、何だって……!?」
戦慄を禁じ得なかった。
あまりにも桁外れな能力もそうだが、それ以上に――
(ネーミングセンス、なさ過ぎでしょ……)
なんだよ、《増える魔術ちゃん》て。
ロディのバッソちゃんと、いい勝負じゃないか。
ていうか、前世で似たような名前のやつ見たことあるぞ。確か、《増えるわ◯めちゃん》――
そんなことを考えていると、不意にネイルが高笑いを始めた。
「ふっはっはっは! ビビっているようだな、我が能力に! 怯え竦むがよいわ!」
ここぞとばかりに、どや顔で宣うネイル。
あえて言おう。
ビビっているのは、別の理由だよ。
 




