第一章12 わからない真意
一仕事終えて帰ってきた頃には、太陽は西の空にあった。
ドタバタしている間に、昼をとっくに過ぎていたようだ。
「ねえロディ」
「あん? どうした」
「さっきの話の続きなんだけど……」
先程の部屋。長机を挟んで向こうの椅子に腰掛け、くつろいでいるロディに話を振った。ちなみにフィリアは、隣でうとうとと船を漕いでいる。
「さっきの……? 何の話だったか?」
「レイシアさんが、どうしてあんなに冷たいのかって話」
「ああ、それか。そういや、そんな話してたな」
とたん、ぼりぼりと頭を搔くロディ。
さっきもそうだった。何か言うことをためらっているような、そんな雰囲気。後ろめたいことでもあるのだろうか?
「もしかして、話しづらいこと?」
「いいや違う。実は俺も、詳しくは知らねぇんだ」
「え?」
なんとも気まずい雰囲気を醸し出していたのは、言いづらいのではなく、知らないからであったらしい。
「あいにく、組織間の問題には興味がねぇんでな」
「いや、でも……組織の頭なら、他の組織のことも知っておいた方がいいんじゃ。特に王宮魔術師団は、王国騎士団と肩を並べる、国防の最重要機関でしょ?」
「悪いが、それをお前に命令される筋合いは無い」
(いや、そりゃそうだけど)
確かに、ロディの言うことは間違っていない。仮にも全てを束ねる騎士長が、ただの騎士の進言を受け入れる道理は無い。騎士は常に王に忠誠を誓い、騎士長の命令を厳守で働くもの。それが、理想的かつ一般的な、騎士の在り方なのだ。
とはいえ、全ての騎士の命を預かり、国民の命を守る重責を担う騎士長が、組織間の問題を知らずにいるのは、いかがなものか。長が頼りなければ、部下は付いてこない。至極当然の話である。
「ばーか、心配すんなよ?」
ふと、僕の心中を察したかのようにロディは、にかっと笑った。
「知りたくねぇこたぁ知らねぇ。国の状況だの、組織の状況だのは、知りたい奴だけ知ってろ。その代わり俺は闘う。それだけで十分だ」
「……なるほど」
なんとなくロディという男を理解した。
騎士団長としての威厳ではなく、最前線に出て闘いを楽しみ、命を張る。異色だが、確かに騎士団長の器だと思った。
「いいね~そういうの。男の世界だね~」
いつの間に目が覚めたらしいフィリアが、なんかしみじみと語っている。
「男の世界か」
図らずも笑みがこぼれた。
悪くない響きだ。
男として転生したのだから、その世界に入れたというのは、望んでいたことだ。
「はははっ。女に言われてもぴんとこねぇがな」
ロディは豪快に笑いながら、グラスにビールを注いで、一気に呷った。
「ぷはぁっ。とにかくまあ、俺のポリシーは今言ったとおりだ。組織関係にも、無論あの女にも興味はない。知りたきゃ、直接あいつの口から聞いてこい」
「そうしようと思う。口を利いてくれるか、わかんないけど」
朝の出来事を思い出す。
――「そうか……ならば、今後貴様らと顔を合わせることもあるまいな」――
冷徹な瞳の彼女に、そう告げられた。
向こうは、毛頭話す気など無いらしい。
「デートにでも誘ってみたらどうだ? ああいう女は圧しに弱い……勘だがな。堕としてから聞けば良いさ」
「そんな強引な――」
「ダメ。それはフィリアが許さない」
またフィリアが割って入る。
「レイシアさんにおにいは渡さない。おにいはフィリアのものなんだから!」
ぎゅうっと、腕に抱きついてくる。
「ははっ。なんとも美しい兄弟愛だな」
苦笑しつつ、ロディは再度ビールをつぐ。
秋色の液体がコポコポと音を立てて、グラスの中で弾けた。
「でも機会があれば、聞いてみる」
「ふっ。好きにしな」
ロディは、豪快にビールを飲み干した。
――この先、僕はレイシアに会うこととなるだろう。
ハーレムするには当然仲良くならなければいけないが、果たしてできるだろうか?
なにぶん彼女は、取っつきにくそうな性格だからだ。
僕などいなくとも、一人で生きていける――そんな雰囲気を放っている。
しかし、そんな彼女にも、ある弱点があることを――このときの僕は、知るよしも無かった。
第一章はこれにて完結です。
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第二章はレイシアにスポットを当てて、物語を展開していきます。彼女の意外な一面が見られるかも?
更に、〈ウリーサ〉の魔術師との熱いバトルも繰り広げられます!
見所たっぷりですので、是非お楽しみに!




