第六章9 三人居るが故に
『たぁッ!』
烈風の如き右拳打が、こちらの守りを貫通し、胸部に重い一撃を加えた。
「ぐッ!」
もろに攻撃を喰らって、僕の身体は大きく仰け反る。
『いただかせてもらう!』
それを好機と、ネイルは伸ばしていた右腕を戻し、代わりに右足で外回し蹴りを繰り出した。
しなやかに腰を切り、弧を描く右足の残像。
次の瞬間、左頬に重い衝撃が走る。
蹴られる直前、即座に歯を食いしばったから、歯が割れ砕けることは避けられたが――勢いは殺しきれるものではない。
蹴られた衝撃で真横にすっ飛ばされ、何度も地面をバウンドする。
「きっつ……ッ」
天と地が何度も入れ替わる視界。
気合いを入れ、なんとか体勢を立て直した僕に追いすがるネイル。
人間離れした速度で、瞬く間に距離を詰めてきた。
こちらは今、体勢を立て直したばかりだ。
攻撃を捌こうにも、その前にネイルの攻撃が当たる。
『逝ねッ!』
冷たい口調でそう告げて、ネイルは指先を伸ばして水平に並べ、手刀をつくる。
伸ばされる腕。
爪の先が、僕の首筋に届く――まさにそのときだった。
ギュンッ!
青白い何かが、僕とネイルの間を疾く過ぎ去る。
コンマ数秒遅れて、冷たい風を感じた。
(い、今のは氷柱!?)
氷の魔術を使ったということは、おそらく術者は――
『ちぃッ! 小娘共がッ!』
ネイルは忌々しげに吐き捨てて、手刀を引っ込め、即座に離脱する。
次の瞬間。
轟ッ!
荒ぶる火球が、ネイルの居た場所に着弾。
ネイルから僕を守るように、赤い炎の壁が形成される。
今度は炎の魔術。
(まさか……)
反射的に、魔術が飛んできた方向を見る。
案の定、いた。
ここから然程離れていない、草がまばらに生えた大地の丘陵地帯。
小高い丘の頂上付近。
互いに三メートルほどの距離を開け、鋭い眼差しをネイルに向けるレイシアとテレサの姿があった。
氷の援護攻撃はレイシア、炎の隔離攻撃はテレサだろう。
「助かりました!」
僕は、二人に礼を告げる。
「礼など言わんでもいい。今は、三人がかりで束になってでも、ネイルを倒さなければならんからな」
「ええ、レイシア様のおっしゃる通りですわ」
レイシアの言葉に、テレサが頷く。
『……ふふふ、はははははッ!』
それを聞いていたネイルは、突如として高笑いした。
『笑わせてくれる! まだ我を倒せる気でいようとは。雑魚が何匹、徒党を組んだところで、我には及ばんわ!』
「そんなこと、まだわかりませんわ! 現に、三人居ればこうして戦えているのですから!」
テレサは、負けじと応戦する。
だが、彼女の言っていることは事実だ。
今現在、やや苦戦しながらもなんとか戦えている。
勝てる見込みは、十分にある状態だ。
そう信じていたから、次にネイルのとった行動が、不意打ちとなった。




