第六章8 ネイルの猛攻
遙か遠く。
拳を突き出していたネイルが、ゆっくりと腰の位置まで腕を戻す。
刹那、地面を蹴って猛速度で突貫を開始した。
『うぉおおおおおおおおッ!』
ネイルが吠え、駆けながら両手を広げる。
その掌から幾つもの小さな炎の弾が生まれて、彼の脚より速い速度でこちらに突っ込んできた。
「厄介な!」
悪態をつき、「女」と叫ぼうとして、辞めた。
魔術に対抗するには魔術が一番だが、この場合は違うと、直感が語っている。
(だったら、僕が取るべき選択は――ッ!)
確信すると同時に、後方へ飛ぶ。
飛び下がった瞬間、今までいた地面に炎の弾が数発着弾した。
黒煙を上げる地面には目を向けず、更に迫る炎の弾を見据える。
「ちぃっ!」
集団で迫る炎の弾に剣の腹を向け、手首の捻りを器用に使って、剣を高速回転。
即席のバリアにして、炎の弾を真正面から受け止める。
回転する剣に炎がぶつかる度、蛍火のように無数の火の粉が散る。
全ての炎の弾を防ぎきり、再びネイルの姿を見つけたときは――彼はもうすぐそこまで迫っていた。
(やっぱり、次は格闘戦で来るのか!)
それを見越して、炎の弾への迎撃に魔術は使わなかったのだ。
一度女状態になって魔術を使い、また男状態に戻ってネイルとの近接線に備える。
それだけの手順をこなす暇はないだろうと踏んで、男状態のままネイルの攻撃を捌ききったが、どうやら項を制したらしい。
地面を踏ん張り、剣を下段に構え、迎撃の姿勢を取る。
『ふっ! 良い覚悟だ』
ネイルが不敵に頬を吊り上げ、拳を限界まで引き絞り、一気に解放。
それに応じて、下段に構えた剣を、弧を描くようにして水平に戻し、一息に地面を蹴って迎え撃つ。
次の瞬間。
ドンッ!
駆けてきたことによる運動エネルギーを上乗せした右ストレートと、宵闇をも貫く剣の銀閃が、真っ向から激突する。
衝撃波が渦を巻き、瞬く間に波及していく。
立っている地面が割れ、隆起と沈降を繰り返し、固いはずの岩盤が、まるでカーテンのように撓る。
彼我の勢力は、完全に拮抗。
一瞬そう思ったのだが――
「なッ!?」
僕は驚愕する。
ネイルの拳がすぐに押し始め、こちらが押し下げられた。
『ぬんッ!』
ネイルが拳を振り抜くと同時に、数メートル後方に飛ばされる。
体勢を整える間もなく追撃するネイル。
『はぁッ! たッ! ぬぁッ!』
掛け声に合わせて繰り出される左拳打に、疾風の如き右手のジョブ。
手首を返して、裏拳打ち。
疾風怒濤の猛攻撃を、剣を使ってひたすら捌く僕。
今はなんとか防いでいるが、きっかけ一つで総崩れになるほど、劣勢であることに変わりは無い。
(何か、反撃の糸口は……!)
必死で探るが、防御に専念するのに精一杯で、なかなか好転のきっかけが掴めない。
八方塞がりな状況を維持している内に、とうとう、一気に体勢を崩された。




