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第六章5 共同戦線

 ネイルが、不敵に頬を吊り上げる。

 刹那。


 ボッと音を立てて、ネイルの周りに橙色の炎の玉が出現する。

 その数、ざっと五〇。

 

(嘘でしょ!? む、無詠唱であれだけの数を!?)


 図らずも、背筋を冷たいものが駆け上がる。


「ちっ。冗談キツいな……ッ」

「あら、ビビっていらっしゃるのですか?」

「現状の分析をしたまでだ。ビビってなどいるものか」

「ふふふ、そうですか」


 こんな状況の中でも、テレサとレイシアは相変わらずだ。

 その様子を、ネイルは遠方から感情の死滅した瞳で見つめ――ぼそりと呟く。


駆逐くちくせよ』


 気怠けだるげに、右手の人差し指をこちらに向けた、次の瞬間。

 無数の炎が、一斉に私達めがけて肉薄してきた。


「ふん! 来るなら来い、返り討ちにしてやる! 《珠玉法シュムック紫水晶アメジスト霹靂ブリッツ六重奏セステット》ッ!」

「よい心意気ですわね! ではワタクシも――《削命法レーベン・ラオベン暴風ストーム二連符デュプレット》ですわッ!」


 別々の魔術を起動する二人。

 敵に不意を突かれ、更にセルフィスの戦線離脱という非常時が重なった今、当初予定していた連携は不可能。

 状況は、圧倒的にこちらに不利だ。


 その現状を覆そうと、二人の魔術が無数の火球を迎え撃つ。

 レイシアが撃った六発の紫電が、差し迫る火炎と真っ向から激突し、爆発四散。

 テレサの放った二つの暴風のやりが、進路上の火炎を絡め取り、遙か彼方へ押し流していく。


「二人とも、凄い……!」


 流石に魔術師達の長を務めた二人だ。

 迫り来る炎の群れを全く寄せ付けない、息ぴったりの攻撃――


「貴様、攻撃の手が緩んでいるぞ? もっとしっかり攻撃をさばかないか! 《珠玉法シュムック蒼玉サファイ水禍アクア》ッ」

「レイシア様こそ、先程より魔術の威力が弱いですわよ? しっかりしてくださいませ? 《削命法レーベン・ラオベン結氷アイシクル》ッ」

「なんだと!? 貴様より多く撃ち落としているだろうが!」

「あらあら、この攻防の最中、お互いが撃ち落とした火球の数を数えてらしたのですね? 器用ですこと」

「ちっ……揚げ足を取ることに関してだけは、一流だな。かんさわる奴だ」


 魔術を放つ手を止めないで、口論を続ける二人。

 ――うん。

 どう見ても息は合っていない。


(おっと、私も加勢しなきゃ!)


 気後れしていた私は、すぐさま懐から宝石を取り出す。

 二人を攻撃することに、ネイルが意識を向けている今がチャンスだ。

 

 一差し指と親指で挟んだ琥珀こはくごしに、ネイルを見据える。

 ねら穿うがつ準備を整えた私は、呪文を口にした。

 

「《珠玉法シュムック琥珀アンバー光輝スパーク》」


 呪文を括ると同時に琥珀が眩い光を放ち、真っ直ぐに飛翔ひしょうする。

 光速で向かう先は、佇立ちょりつする帝王。

 テレサとレイシアを襲う蛍火ほたるびのような火球の間をすり抜け、真っ直ぐにネイルの元へ。


 一条の閃光は、狙い外すこと無くネイルを――


『ふん、猪口才ちょこざいな』


 穿うがたなかった。

 攻撃が届く直前、何の前触れもなくネイルは身を捻ってかわしたのだ。

 ネイルを捕らえそこねた閃光は、夜闇の向こうへ吸い込まれていく。


「くっ、なんて奴……!」

 

 二人への攻撃に夢中で、こちらに気付いていないと思っていたが、甘かったようだ。

 相手はテレサをも震え上がらせる程の実力者。

 

 この程度の不意打ちは、通じないらしい。

 そんなネイルの視線は今、私の方に向けられていて――


 ドンッ!


 地面を蹴る音が聞こえて、ネイルの姿が急激に大きくなる。

 高速で、こちらへ向かってきているのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これが高度な魔術戦か!!! 魔術を主体に用いるバトルって美しいですね!!!
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