第六章3 失意のセルフィス
「四人じゃなくて三人? 何を意味のわからないことを言っているのですか、お父様」
テレサは失笑する。
当然の反応だ。
誰だっておかしいと思う。
だが、不思議とネイルは、したり顔を崩さない。
その様子を訝しんでいると、不意にネイルはとんでもないことを告げてきた。
『確かに、人数で見れば四人だ。だが――気付かないのか? 一人、戦力外が混じっていることに』
「……は?」
(え?)
テレサも私も、釣られるようにして振り返る。
斜め後ろには、獲物を狙う猛禽類のごとき目でネイルを睨みつける、レイシアの姿が。
一瞥しただけでわかる。
既に彼女は、臨戦態勢だ。
彼女が戦力外ということは、どう見ても有り得ない。
(じゃあ、まさか……?)
消去法で、レイシアの後ろに控える人物に視線を移す。
「――ッ!? セルフィスさん!?」
私は、思わず叫んでしまった。
というのも、彼女の白い顔は、いつも以上に蒼白で、血が通っているのか心配になるほどだ。
翠玉色の大きな瞳は、悪夢を目の当たりにしているかのように小刻みに揺れ、荒い息を吐いている。
どう見たって、普通じゃない。
明らかに様子が変だった。
「だ、大丈夫ですか?」
ネイルがいるのも忘れて、彼女の元に駆け寄る。
「だ、大丈夫……です」
セルフィスは、緩慢な動きで私の方に目を向けて、表情を取り繕った。
やせ我慢であることは、言及するまでもなくわかる。
とても、戦える状態にないだろう。
「セルフィスさんは、遠くで見守っていてください」
どうして急に、様子が一変したのかという疑問は封印し、思ったことを素直に伝える。
治癒魔術師が減るのは痛手だけど、今の彼女はまともに戦える状態じゃない。
戦線に加えたことで彼女を失うようなことがあれば、その方が遙かに痛手だ。
「そんな……わ、私だって、戦えますよ……ッ」
セルフィスは、必死に言い返す。
その声の震えを見逃す私ではない。
私は、セルフィスの肩に優しく手を置いて、顔を近づけた。
「気持ちだけ受け取っておきます。今回はご自愛ください。無茶をして、貴方に死んで欲しくない」
「カースさん……」
しばらくの間、互いに惹かれるように見つめ合った後、セルフィスは不意に視線を外した。
「……わかりました。私も、カースさんを困らせたくはありません。ですがどうか、死なないで――」
そう言って、セルフィスは一歩後ずさる。
それから、彼女の方を見つめていたレイシアとテレサに一礼し、踵を返して近くの林へ駆けて行った。
戦力は大幅ダウンだが、なんとしてもやるしかない。
小さくなっていくセルフィスの背中を見つめながら、私は決意を固める。
そのときだった。




