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第六章1 親と子の口論

第六章スタートです!!!

 


 △▼△▼△▼


 時刻は、午前二時三〇分。

 丑三つ時であり、草木もぐっすりと眠っていたのだが――今、一人の男の登場によって叩き起こされた。


 男――ネイルを中心に荒い風が吹き、ざわざわと草木が揺れている。


『ふん、くだらん……』


 風や植物ですらおびすくむ程の威圧感を放ちながら、ネイルは唾棄だきする。

 テレサの何倍も深くくらい闇をたたえた瞳ににらまれて、思わず膝が砕けそうになってしまう。


『たかが女子おなご四人で我を倒そうなど、我も舐められたものだ……なぁ、テレサよ』

「――ッ!」


 隣に立つテレサが唾を飲み込む音が聞こえた。


「ええ、そうですわ。ここにいる四人は、誰も彼もが高い能力を誇る方々です。お父様一人を倒すことくらい、わけないですわ」


 テレサは負けじと、そう言い返す。

 しかし、その声は乾ききっていた。

 紛れもなく、テレサがネイルに恐れおののいている証拠だ。


『そうか……やはり貴様は、アンナの血を引く愚かな娘よ。非力なくせによく吠える。むしろそれは、貴様が女だからなのかも知れないが』

「お母様の侮辱ぶじょくは、許しませんわよ……ッ!」


 その瞬間、テレサの周囲の温度が下がった――気がした。


「お母様は、貴方と違って深い愛がありました。血も涙も通っていない貴方に、お母様を侮辱する資格も……あやめる資格もありませんわ!」


 テレサは、烈火れっかともる深紅の瞳で、ネイルを睨みつける。


『ふん、そういえば貴様は、気味の悪いほどアンナに心酔しんすいしていたな。帝国の名ではなく、母方の性を名乗っているというのは、風の噂で聞いたことがある』


 そういえばそうだった。と、私も心の中で頷く。


 テレサ=コフィン。


 私が聞いた彼女の名は、それだ。

 しかし帝王の血を引いている以上、彼女はセルフィスと同じ、れっきとした王女なのである。


 テレサ=ラ=ロストナイン。

 

 それが、この帝国内で知られている真名に相違ない。


 聞いた感じ、彼女が人目をはばかって、母方の性である“コフィン”を名乗っているのだろう。

 

 普段“帝国のお姫様”けん“〈ウリーサ〉の〈総長プレジデント〉”として行動をする際は、父親に叛意はんいを悟られぬよう、使いたくない父方の性を名乗っていたのだと思う。

  

『貴様は今、我が貴様を愛さなかったと言ったな』

「ええ、そうですわ。その冷たい拳に幾度となくたれたことは、忘れたくても忘れられません」

『知ったことか。貴様も憎きアンナの血を引く身だ。現に貴様は、こうして裏切った。妻になったにも関わらず、我の策謀さくぼうに反感を示した、貴様の母と一緒でな』

「ワタクシは裏切ってなどおりません。お父様に従っていても、心を許したことは一度たりともありませんわ」

『ふん。やはりアンナも貴様も我の意に沿わない。だから女は信用ならんのだ』

「デタラメなお考えをして――ッ!」


 テレサは、怒りが抑えきれないといった様子で、ネイルを睨み続ける。

 対してネイルの表情は、まるで感情を失ったかのように涼やかだ。テレサの憤怒ふんぬなど、全く意に介していない。


「そんなにも臆病おくびょうだから、〈ウリーサ〉の魔術師に殿方とのがたしか任命なさらないのでしょう?」

『そういうことだ。貴様の場合は、我の手が届く範囲にいた方が始末する際に都合がいいから、〈総長プレジデント〉の椅子に座らせたが……他は全て、謀反むほんが起こらないように従順な男のみを起用している。貴様やアンナを見ていればわかる。女は、裏で何をするかわかったものじゃない』

「ワタクシやお母様が貴方を信用しないのは、貴方の腐敗しきった性根しょうねのせいですわ。自分のことを棚に上げて、勝手な偏見を押しつけないでくださいませ!」


 二人の言い争いは、加熱してゆく。

 それを聞いていて、私はもう一つ、気付いたことがあった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『女は、裏で何をするかわかったものじゃない』 名言(無言のサムズアップ)。 ネイル様の台詞『』で表現されているの威圧感半端なくてやべーっす!!!
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