第五章40 戦慄の音。 立ちはだかる最後の敵
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それから幾ばくか時間は流れ、大方のことは決まった。
「それでは、作戦の概要を今一度確認しますわね。作戦開始は本日午前五時ジャスト。場所は帝国政府最上階のロイヤルトイレですわ」
ロイヤルトイレって何だよ。というツッコミはやめておこう。
帝王様用の、高級トイレのことだろうから。
「不意打ちが項を制したならば、それで終了ですが。お父様のことですから、ほぼ一〇〇%躱してしまわれるでしょう。そうなった場合、ワタクシとカース様が前衛、レイシア様とセルフィス様が後衛で連係攻撃を仕掛けますわ」
いいですわね? と、テレサが目で促してくる。
私達が頷くのを確認すると、テレサは締めの言葉に入った。
「それでは、作戦会議はこれにてお開きですわ。各自、作戦開始に備えて準備をして――」
テレサがそこまで言った、そのときだった。
『何やら、面白い話をしているではないか……』
どこからともなく、そんな声が聞こえてくる。
「誰?」と聞き返す間もなく、その声の主は姿を現した。
突如として、目の前の虚空にビキビキと亀裂が入り、次の瞬間。
ガシャァアアン!
鋭い音を立てて、割れ砕ける。
楕円形に切り取られた空間の向こう側は、黒紫色の渦が巻いている。その場所だけ、まるで異次元へと続くトンネルのようであった。
そして、向こう側の黒紫色の世界から、一人の男が出てきた。
白髪の交じった灰色の髪を持つ、初老の男だ。瞳の色は、テレサと同じ、昏い色に彩られた赤色。額に刻まれた幾つもの傷が、いかにも強者であることを物語っている。
「嘘ですわ。そんな、そんなことは……ッ!」
その人物を目にした途端、テレサは悪夢に魘されたウサギのように縮こまり、怯え始めた。
その反応から、目の前にいる人物が誰なのか、容易に予想が付く。
「この人は、まさか……」
思わず口を突いて出てしまったその言葉に、テレサが重ねた。
「そのまさかですわ。ワタクシのお父様……いえ、倒すべき仇敵。ネイル=ラ=ロストナインッ!!」
テレサがそう言った瞬間、ネイルは不敵に頬を吊り上げてみせた。
『愚鈍な貴様らの策略は、全て聞かせて貰ったぞ。貴様らのような頭の足りぬ猿共が我を打ち倒そうなど、片腹痛いわ』
したり顔で宣言するネイルを前にして、場の空気が一気に凍り付く。
(策略を聞いてた……? つまり、作戦会議を始めた頃から、全て敵に筒抜けだったってこと!?)
そんな、嘘だと思いたい現実に、私は天を仰ぐ。
今まで練ってきた作戦が、徒労に終わった。
ネイルの不意を突く作戦であったはずなのに、不意を突かれたのは――私達だ。
「くっ……!」
毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出すのを感じながら、私は仇敵を睨みつけた。
ネイル=ラ=ロストナイン。
帝国進軍における最大にして最後の強敵が、今、私達の前に立ちはだかっている。
第五章はこれにて完結です。
第六章は、ネイルとの直接対決となります。第二部、帝国進軍編のラストに相応しい展開を書き上げていく所存ですので、よろしくお願いします。
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