第一章11 隣国の悪行〈契約奴隷〉
「ちっ。張り合いのねえ奴らだぜ」
魔術師達を殲滅し終えると、ロディはバスターソードを背中に戻しつつ、いかにも「期待外れで不服です」感を隠そうともせずに言い捨てた。
「悪ぃな、お前ら。わざわざ連れてきたのに、ほとんど出番奪っちまってよ」
「いや、別に構わないけど」
こちらに戻ってくるロディに告げる。
鎧袖一触とは、まさにこのこと。二の足で立っている魔術師の姿は、もうどこにもない。
「しっかし。あいつらてんで弱かったな」
「いや、あんたが強すぎるんだよ」
呆れ半分、尊敬半分で呟いた。魔術師達が弱いというなら、居合わせた騎士達で十分対応できたはずだ。
「とりあえず、へっぽこ魔術師の処分は、警邏庁第三支部に任せるとすっか。俺達は撤退だ撤退」
そそくさと帰ろうとするロディ。だが、何かを思い出したようにふと足を止めた。
「おおそうだ。まだやることがあったんだ。お前ら、ちょいと付き合ってくれるか?」
「はい」
「嫌だ」
何故か、フィリアは断った。
「おいフィリア、なんでだよ? 騎士長の言うことは聞かなきゃいけないんだぞ? たぶん」
「嫌だよ。ロディさん、フィリアのタイプじゃないし」
「おおお。告白してないのにフラれるとは、俺もなかなかダンディな男になってきたぜ」
「あのね、フィリア。「付き合って」ってそういう意味じゃないから」
「え? 違うの?」
きょとんとするフィリア。
「違うよ! 大体、それだったら僕も告白されてることになるでしょうが!」
「あ、そっかー!」
理解してくれて助かった。
転生前とて、僕は男に好かれたいと思ったことなど一度も無い。
というか、そろそろツッコミにも疲れてきた。ロディはロディで、フィリアとは別ベクトルで頭のネジが飛んでいるから、相手をするのも一苦労だ。
はっきり言おう。先が思いやられる。
「じゃあ、フィリアはロディさんについて行けばいいんだね!」
「そう。そういうこと」
かくして、僕達はロディについて行ったのだが……歩いたのはほんの十数メートルだった。
「ああ、ここだ」
場所は、先程まで魔術師が徒党を組んでいた所だ。
辺りには、吹き飛ばされた魔術師達が倒れ伏し、その殆どが気絶している。中には、深い裂傷を負い、既に息を引き取っている者も。
「ここで何をする気? 魔術師の処理は、警邏庁に任せるんじゃ――」
言いかけていた言葉が止まる。
僕の目はある一点に釘付けになっていた。
地面に倒れ伏して死んでいる、一人の少女。この惨劇を見れば、少女が死んでいることに驚くことはない。けれど、驚いたのは。
「この子、身体に傷一つ無い……」
そう。絹のように滑らかな腕や足は、生きている人間のそれだ。
戦闘に巻き込まれて死んだなら、裂傷や打撲、火傷のあとなどが残るはず。にもかかわらず、この少女にはそれがない。まるで生きたまま死んでいるかのような、不自然な状態。
「これは……一体」
「〈契約奴隷〉。奴隷魔術を使うのに必要な、人間触媒。いわば、使い捨ての奴隷だ」
憎々しげに、ロディは吐き捨てた。
「ひ、ひどい……」
フィリアは口元を押さえ、目を背ける。気持ちはわかる。齢十五なら、当たり前の反応だ。かくいう僕も、妹の手前、なんとか平静を保っている状態である。
「奴隷魔術っていうのは、なんなの?」
「言葉通りの魔術さ。魔術を行使するときの触媒に、人の生命力を使う。当然、触媒にされた〈契約奴隷〉達は、魔術師が魔術を振るうごとに生命力を奪われて、やがて死に至る。この女の身体に傷一つ無いのは、そのためだ。〈ウリーサ〉が独自に作り出した外法中の外法魔術だ。生きた人間を触媒に使うなんてな」
「でも、触媒として使われる前に、抵抗とかするんじゃないの?」
「クスリで自我を抑えられてる」
「そ、そっかぁ」
「ふっ。まあそう落ち込むな。クスリを抜く方法は、既に確立されてんだ。戦闘が終わった後、まだ生きている〈契約奴隷〉達を見つけて保護するのも、王国騎士団の任務の内なのさ。救える命は、ちゃんと救わないとな」
よかった。少し安心した。
てっきり、手強い敵を相手にすると興奮する変態野郎だと思っていたが、人間らしい優しさもあったようだ。
「つっても、今回は0人みたいだがな」
話しながら素早く死体検分を終えたロディは、悔しそうにこぼした。
「さて、今度こそ用も済んだし帰ろうぜ」
「う、うん」
「そうだね」
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