第五章37 語られる真相3
「母親が……実の夫に殺されたってことなんですか?」
驚きを隠しきれない私は、思わず問い返してしまった。
「そうですわ。お母様は、お父様が狂い始めた頃から、軍拡計画の真相にいち早く気付き、どうにかして止めようと尽力したのですが――それを良く思わなかったお父様に……」
テレサは悲しそうに目を伏せる。
気の毒な話だ。
私自身、湿っぽい話は好きじゃない。
ジメジメしていて、キノコが生えそう。
ただ、そんなことを言えるような状況じゃないことは、理解している。
「とにかく、そういったことがありまして……今現在、お父様を止めることが出来る人間は、最早帝国内にいないのですわ」
「ふん、そういうことか。ようやく話が繋がったぞ」
ふと、レイシアが鼻を鳴らした。
「それで、今度は貴様自身が実父を止めようとしているわけだな?」
「おっしゃる通りでございます。〈ウリーサ〉の〈総長〉という立場を利用して、お父様への叛意を上手く隠しながら、お父様を殺めるチャンスを窺っておりました。〈ウリーサ〉トップの情報網は多く、多少強引でも怪しまれず様々な情報を得ることができますから」
ということはつまり、彼女は〈ウリーサ〉の〈総長〉という立場に隠れている、帝国の敵ということになる。
帝国の敵。つまりは、王国――私達の仲間という認識でいいのだろうか?
「まあ、貴様が帝王に仇をなしている、ということはわかった。だがな」
レイシアは、鋭い瞳をテレサに向ける。
「それで、余やカースに協力を仰いだのは、一体どういうつもりだ? まさかとは思うが、ネイルとやらの討伐を、手伝えと言うんじゃないだろうな?」
「いえ、その通りでございますわ」
テレサは、神妙に頷いてみせる。
「……断る」
レイシアは、少し間を置いて拒絶の意思を示した。
「なぜです? 貴方様がたの目的は、王国の平和を揺るがす勢力の排除ではないのでしょうか? そのトップに君臨するのがお父様である以上、互いに利害は一致しているはずですわ」
「それはそうなのだがな。貴様の言うことはどうにも信用ならん。今まで、何もかも目的をはぐらかしてきた以上、貴様の提案に二つ返事で乗ることはできんのだ。ネイルが黒幕というのなら、こちらでこの戦いにケジメをつける。」
レイシアはにべもなく言い捨てた。
「そもそも、貴様一人で目的は成せないのか? 認めたくないが……貴様は魔術師としては一流だ。そんな貴様なら、我等に頼ることなくネイルを始末できるのではないか?」
「無理ですわ」
テレサは即答した。
「お父様は、ワタクシを遙かにしのぐ実力者ですわ。魔術師で、お父様の右に出る者はいません」
その言葉を聞いて、私は身震いがした。
一週間半前の戦いで、魔術師達の精鋭が集まる王宮魔術師団を半壊させた程の実力者であるテレサ。
そんな彼女をして、「歯が立たない」と言わしめるのが、ネイルという人物らしい。
頭もキレて、魔術師としても超一流。
そんな人物を相手に、レイシアや私が協力して立ち向かっても――果たして勝てるのだろうか?
そういった不安が、私の中に押し寄せてくる。
(無理かも知れないな……)
一度そう思ってしまうと、どうしようもない。
レイシアと違い、私は別にテレサのことを信用していないわけではなかった。
ただ単純に怖いだけだ。
〈ウリーサ〉の中でテレサが最強だと思っていたのに、更に上がいるという事実が。
どのみち、ネイルを倒さねば王国に未来はない。
それはわかっているのだけど、どうにも膝が笑ってしまう。
(すいません、私もちょっと無理そうです)
情けないことこの上ないが、その台詞が喉元まで出かけた――まさにそのときだった。




