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第五章36 語られる真相2

「貴方様がたも、その名前は知っているはずですわ。この場所で戦う前、なぜセルフィス様の居場所を教えたのかとカース様に問われたとき、お父様の命令だと、咄嗟に嘘をつきましたから」


 テレサは、こともなげに言ってくる。


 テレサ本人の独断であることが部下達にバレないよう、その場しのぎとして嘘をついたに違いない。

 確かに、カリスマ的存在であるネイルの名を出せば、疑われることはないはずだ。


(でも、いきなりなんで帝国トップの人物名なんか出したんだろう? 私達に協力して欲しいってことは、テレサさんは何かを成すつもりなんだよね。そのことと、ネイルって人との間に、何か関係があるのかな?)


 そんなことを考えていると、不意にテレサがとんでもないことを言い出した。


「ワタクシには目的がありますわ。それは、この国を腐らせた元凶であるお父様を始末すること。差し違えても、彼の者の暴虐ぼうぎゃくを止めることですわ」

「……はいぃ?」


 私は、思わず変な声を上げてしまった。


 帝国のトップと呼ばれる人物の始末。

 それはつまり――


「実の父親を手にかける、ということですか?」


 私は、恐る恐る問うた。


「はい、そうですわ」


 だがテレサは、よどみない口調で返してくる。

 それから、とつとつとネイルについて語り出した。


「お母様の話では、昔のお父様はとても誠実で平和を愛する人だったらしいですわ。帝国の発展に極めて真摯に取り組んでおられたらしく、そのお陰で執政しっせいになうお偉方や、国民からの評判も良かったようなのです。お母様も、その人柄に惚れ込んでプロポーズし、めでたく結婚。そしてワタクシを授かりました。更に国政面では、病床びょうしょうに伏した先代の帝王様に変わる次期帝王として、帝国政府のお偉方がこぞってお父様を推薦すいせん。国の全てを担う帝王として就任しましたわ。このように、多くの方々からしたわれる、素晴らしいお人だったようなのです。――帝王に就任する前日までは」


 テレサの表情が陰る。

 今までに見たことの無い、陰鬱いんうつな表情だった。


 その姿に戸惑う私を差し置いて、テレサは話を続ける。


「帝王に就任後、お父様の態度が一変したのですわ。執拗しつように軍拡政策を掲げ、〈トリッヒ王国〉の侵略計画を立案。そのための魔術組織である〈ウリーサ〉の結成。首都である〈ディストピアス〉の要塞化……。当然、その発案に難色を示したお偉方も多かったようですが、お父様の横暴を止めることはできませんでしたわ。元来、この国の帝王とは、絶対的な権力者のこと。帝王の命令こそ絶対の、独裁国家なのです。彼の誠実で平和を愛するという人柄の裏に隠された、戦争好きで冷酷無比な本性を暴けなかった、帝国側のミスなのですわ」


 テレサは、苦々しく表情を歪める。

 

「だが、わからん話だな」


 そのとき、レイシアが口を挟んだ。


「それだけのことをして、何故未だに国民や貴様ら〈ウリーサ〉が、ネイルというやからに従う? 貴様が言うに、ネイルとやらは権威者カリスマなのだろう? いくら独裁国家と言えど、人に慕われてこその権威者カリスマだ。とっくに権威は失墜しっついしているように聞こえるが?」

「それが、そんなことはないのですわ」


 テレサは悔しげに歯を鳴らす。


「彼は、本性を決して垣間見せないままトップに上り詰めた人間。いわば究極の詐欺(ペテン)師なのですわ。自分の示す政策や計画において、帝国にとってプラスになりそうな効果が得られるというデマをでっち上げ、国民や帝国につかえる兵士達をだましたのです。人をあざむくことにおいて、お父様以上に優れた人物を、ワタクシは知りませんわ」


 テレサは皮肉げに言い捨てた。


 他人に本性を掴ませないという点は、テレサも同じだ。

 本人は認めたくないと思うけれど、そういうところは父親の血を引いていると思ってしまった。


「そんなこんなで、お父様の思惑通りに軍拡は進む一方。もちろん、独裁国家の枠を越えて、お父様の計画を止めようとした者も多く居たようですが……皆、お父様の息がかかった者に暗殺されました。そして、その中の一人に――ワタクシのお母様もいましたわ」

 

 テレサは、憂いを隠しきれない様子で、何やらとんでもない事実を告げた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 長い台詞はテレサ様の気持ちが強く表れていて素敵だなあという気持ちと一まとめにしないで3つぐらいに分けてくれれば読みやすいという現実的な気持ちが入り乱れています
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