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第五章27 最後の衝突

《三人称視点》

「やぁあああああああああああッ!」


 先に動いたのは、やはりフィリアの方だった。

 短剣を水平に構え、高速でカモミールへと肉薄する。


 彼我の距離はみるみる内に縮まり、八〇メートル――四〇メートル、そして一〇メートル。


 フィリアの表情がはっきりと見える距離まで近づかれた瞬間、彼女の姿が横振れして消えた。


(また残像かも!)


 だが、焦ることはない。

 彼女の姿を探している隙に、ロディから攻撃を加えられることもあり得る。

 むやみに彼女の消えた先を追うのは、得策とは言えないのだ。

 

(だから今、僕が取るべき選択は……!)


 カモミールは、一切視線を泳がすことなく、代わりに右手を空に掲げた。


「《削命法レーベン・ラオベン暴風ストーム》ッ!!」


 カモミールは、魔力マナを全開で魔術に注ぐ。

 突発的な風が、カモミールを中心に巻き起こった。その姿はまるで、自然の猛威に代表される、竜巻のごとし。


 地面の土や小石を空に吹き飛ばし、周囲の大気を震撼しんかんさせる。

 そんな、絶大な威力を誇る全方位攻撃魔術は、カモミールに接近していたフィリアを容赦なく襲った。


「き、きゃあああああああああああああッ!?」


 カモミールがふと上を見れば、突風のかせに囚われ、ぐるぐると回っているフィリアの姿があった。


「なんとか成功したかも……ッ!」


 カモミールは、不敵に頬を吊り上げ――


「んなっ! あの馬鹿、油断しやがってッ!」


 そんな彼の視界の端に、ロディがあからさまに狼狽ろうばいする様子が映った。

 咄嗟とっさにバスターソードを構えるロディを尻目に、カモミールはさらなる魔術を起動させる。


「《削命法レーベン・ラオベン火炎フレイム》かも!」


 刹那、真っ赤な炎がカモミールのてのひらから生じ、煌々(こうこう)と闇を照らす。

 その炎が、渦巻く風のたもとに触れた瞬間、下から上に吹き上げる竜巻に乗って、炎が上昇していく。

 

 その竜巻の先端には、突風に揉まれて身動きがとれないフィリアの姿があって――


「させるかぁああああああああああッ!」

 

 ロディが、弾けるように動いた。

 大きく引き絞った両腕を一息に振るい、飛ぶ斬撃を放つ。


 真空の刃が向かう先は、風の勢いに任せて上昇していく炎の先端。

 炎がフィリアに届く前に、斬撃をぶつけて炎を明後日の方向に弾き飛ばす魂胆なのだろう。


「だけど、そうは問屋が卸さないかもッ!」


 カモミールはそう叫び、サッと右腕を横に振るった。

 すると、今までただ風の流に沿って昇っていくだけだった炎が、カモミールの意思に応じて生き物のようにうねり、その形を変える。


 結果、ロディの放った斬撃は、炎に当たることなく過ぎ去ってしまった。


「ちぃッ! 外されたかッ!」

「ふん! 魔術というものは、攻撃の形や速度すら自由に変えられない剣術とは違うのかも!」


 攻撃が当たらず焦る様子を見せるロディとは対照的に、カモミールは勝ち誇ったようなしたり顔で、再び右腕を上空に掲げた。


 炎はカモミールの意思に従い、再び風の流れに乗って、フィリアへと向かっていく。


「くっ!」


 風の流れに逆らえないフィリアは、固く目をつむるしかなく。


「これで終わりかもッ!」


 最早、ロディの援護も届かない。

 そう認識し、おのが逆転勝利を確信したカモミールは、高らかにそう宣言した。

 まさにそのときであった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ここでくたばる俺達のカモミールさんではないぜ!!! 引きが不穏だけども!!!
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