第五章25 翻弄作戦
《三人称視点》
「ちぃッ!」
カモミールは咄嗟に地面を蹴って、横に転がる。
しかし今回ばかりは、刃が障壁に近づいたギリギリで障壁が破壊されたために、避けるのに必要な時間が少なく――
ザシュッ。
刃の端が、カモミールの左手を引っかける。
ぱっ、と傷口から鮮血が舞った。
転がる勢いのまま二人から距離を取り、体勢を立て直すと同時に、右手の人差し指をフィリアの方に向ける。
左手に持っている鼠を締め付けるかのように強く握り、矢継ぎ早に呪文を唱えた。
しかし。
「《削命法―》……なッ!?」
呪文を言い切る前に、カモミールは魔術の起動をキャンセルした。
指先に集まりかけていた魔力が、たちまち解けて霧散してゆく。
カモミールが魔術をキャンセルしたのには、理由があった。
それは――
(いない! ロディの姿がどこにもないかも!)
そう。
ほんのさっきまで、右前方にいたはずのロディが、その場から消えている。
今カモミールの視界に移っているのは、腹が立つほどのドヤ顔で剣を構えているフィリアだけだ。
そして、この状況で危惧することはただ一つ。
(後ろに回り込んだかも!?)
二の舞は踏まんと言わんばかりに、カモミールは振り返る。
しかしどういうわけか、背後にも人影は見当たらない。
(ッ!? 一体どこに行ったのかも……!?)
予想が外れて焦るカモミール。
慌てて周囲を見回すが、やはりロディの姿はどこにもなく――
「喰らいやがれぇええええええッ!!」
次の瞬間、迫真の叫びがカモミールの耳に届く。
その声は――カモミールの頭上から聞こえた。
「なっ!?」
それは、青天の霹靂だった。
カモミールが頭上を見上げると、ロディが上空から真っ逆さまに落ちてくるのが見えた。
いつの間にか、天高く飛び上がっていたらしい。
両手に構えたバスターソードの切っ先は、真下にいるカモミールへと向けられている。
(くっ……この短時間で、また僕の死角に……ッ! その上、今回も同じパターンを避けて!?)
だが、驚いている暇は無い。
カモミールは、反射的に後ろへ飛ぶ。
コンマ数秒前カモミールが立っていた場所に、巨大な刃が突き立った。
ドンッ!
衝撃音と共に土肌が盛り上がり、突風が吹き荒れる。
「うわぁあああああああああッ!?」
その突風に巻き込まれたカモミールは、情けない叫び声を上げ、地面を何度もバウンドしながら転がってゆくのだった。




