第五章22 理解不能な思考回路
《三人称視点》
「変態変態変態ッ! どこ見てんの!?」
両手でサッとスカートの裾を押さえ、まくし立てるフィリア。
「いや……見たくて見たんじゃないかも。はしたなく脚を上げてたら、嫌でもパンツは見えちゃうかも」
「ちょっと! 嫌でもってどういうこと!? フィリアのパンツは需要無いってコト!? それはそれで傷付くんだけど! 一応これでも女の子なんだよ!? 発言にテレパシーが無さ過ぎる、サイテーッ!」
「お、怒る基準が謎すぎるかも!? あとテレパシーじゃなくて、デリカシーかも!」
「うるさい! どっちでもいいんだよ! とにかくフィリアだって“れでぃ”なんだから、もっとデリパシーのある発言をして欲しいの!!」
「ま、混ざってるかも!?」
カモミールは思わずそう突っ込んでしまった。
完全にフィリアのペースに乗せられてしまっている。
(ま、まったく……レディを自称するなら、パンツを相手に見せつけるような格好なんてしないで欲しいかも……)
辟易したとばかりに、カモミールはため息をつく。
思考回路が謎すぎるし、問答を始めれば彼女に主導権を握られる。
カモミールはそれに振り回されるばかりだ。
(戦闘のテクニック然り、会話然り……この予測不能な行動をする金髪娘は、一体何者なのかも……?)
相手を困惑させることに長けている。
それでいて、本人は無自覚そうなのだから余計質が悪い。
自然に相手を翻弄させる――もう、そういう星の下に生まれてきたとしか思えなかった。
(ひょっとして僕は……とんでもない奴を相手にしているのかも?)
カモミールは、図らずも唾を飲み込んだ。
単純な、肉弾戦の強さが恐ろしいのではない。
何一つ予測できない行動や発言など、その不確実さが、カモミールに警戒心を抱かせる。
人が生得的に持つ、未知に対する恐怖というべきか?
(とにかく、奴の場合は、一挙手一投足に注視しないことが重要かも……)
対象の観察は、魔術師にとって基本中の基本だ。
相手の得手不得手を認識し、状況に合わせて最善の手札をきるのが普通。
しかし、フィリアにはそれが通用しない。
心中や行動を知ろうとすればするほど、余計にわからなくなっていく。
そしていつの間にか、相手に主導権を握られているのだ。
(なんというか……行動が読めないという意味では、あの人に似てるかも)
カモミールの脳裏に、赤く淀んだ目と漆黒の髪を持つ女性の顔が映る。
あの人もそうだ。
〈総長様〉――カモミール質の上司であるにも関わらず、謎に包まれている。
行動を起こす際の理由をいつもひた隠しにしているから、密かに考えている計画でもあるのだろう。
それ故に、一部の部下が「きな臭い」「鼻持ちならない」などと陰口を叩いていたのを聞いたことがあるが、それは仕方のないことだとカモミール自身も思っている。
それくらい、あの人はあまりにも不思議に過ぎる。
「まあ、どのみち考えても詮無きことかも……」
カモミールは自嘲気味に呟く。
〈総長様〉が上司で、こちらが部下。
そういう揺るぎない関係である以上、こちらは黙って付き従うしかない。
(そんなことより、今はこの戦闘に集中しなきゃかも)
カモミールは、目前の金髪少女を見据える。
準備運動のつもりだろうか?
「おいっち、にー、さん、し」などと声を上げながら、屈伸を行っている。
敵を目の前にしてこの態度……やはりただ者では無さそうだ。
――「へっへ~ん! 舐めてるんじゃなくて、余裕を見せてるんだよ? なんたってフィリア達、カモミールさんとの戦いの対抗策を、しっかり考えてきたんだもんね!」――
戦う前、そんなことを言っていたのを思い出し、カモミールは静かに頷いた。
(対抗策か……それが、この金髪幼児体型の性格そのものだとしたら、確かに厄介かもね)
 




