第五章21 フィリアの強さ
《三人称視点》
フィリアが手にした剣の刃が、怪しく煌く。
鋭い一撃が、不意を突かれたカモミールへと差し迫る。
「ちぃッ!」
カモミールは咄嗟に重心をずらし、その一撃を避けた。
ひゅぱっ、という空気を裂く音が響き、剣はカモミールの脇腹を掠め去る。
間一髪で不意打ちを躱したカモミールは、ほっと安堵する……が、それも束の間。
「はぁあああああッ!」
フィリアは立て続けに攻撃を加える。
突きを放った勢いはそのままに、鎌鼬のように疾く鋭い回し蹴りを、カモミールの腹部に喰らわせた。
「ぐっ……うぅッ!」
激しい痛みが腹から背へ駆け抜けるのを感じながら、カモミールは数メートル押し下げられた。
(やはり、そういうことだったかも……!?)
激痛に耐えながら、カモミールは自身の推測が正しかったことを確認すると共に、戦慄を覚えていた。
魔術的視覚を用いても、彼女の居場所を突き止められなかった理由は、恐ろしく単純。
カモミールがロディの攻撃に対応している間に、カモミールの死角に移動していた。ただそれだけの話。
しかして、カモミールがロディの攻撃に意識を裂いていた時間は、精々五秒程度。
その僅かな間に、カモミールの背後を取ったフィリアの恐るべき俊敏さを目の当たりにして、カモミールは舌を巻いていた。
(ロディって奴の並外れた攻撃力も、相手取るには面倒だけど……それより、この金髪幼児体型がちょっと厄介かも)
カモミールの額を、小さな汗の珠が流れ落ちる。
以前戦った時も思ったが、ロディのパワーは異次元クラスだ。
いかなる魔術も真っ向からねじ伏せる、圧倒的な攻撃力を誇っている。
絡め手を使えば下せないこともないが、慎重に手札をきらないと、先にカモミールの方が切って捨てられること請け合いだ。
だが、そんな彼よりも生意気金髪女の方が、現状においてカモミールの脅威になっていた。
その理由はずばり、先程も垣間見せた俊敏さにある。
少し目を離せば見失うほどの足の速さと、位置取りの巧さ。
加えて連続攻撃を仕掛ける際も、切り返しが速く、バリエーションが豊富で、どうしても翻弄されてしまう。
遠距離戦を得意とする魔術師にとって、彼女の素早さは厄介なものであった。
「ふっふ~ん、ビビっているようだね?」
回し蹴りを放った後、足の裏を前に突き出した格好のまま、フィリアは挑発するようにカモミールを睥睨する。
「くっ……!」
カモミールは忌々しげにフィリアを見つめ返して、次の瞬間、慌てて目を逸らした。
「ちょっと、なんで目を逸らすの?」
「いや、その……パンツが丸見えかも……」
「……え?」
フィリアは、自分の状態を再確認する。
足を上げたまま制止しているということは、つまり……スカートがめくれ上がっているわけで。
「きゃぁああああああああああッ!」
フィリアの恥ずかしげな絶叫が、辺り一帯に木霊した。




