第一章9 反撃はバッソちゃんと共に
「た、大変です! 騎士長殿ッ!」
扉が凄まじい音を立てて開くと共に、一人の若い兵が転がり込んできた。
「なんだ騒々しい! 男ならもっと堂々としていやがれッ!」
「も、申し訳ありません! って、そんなこと言ってる場合じゃなくて! 凶報です! 東部地区十二番地に、〈ウリーサ〉の連中が現れました!」 「なにッ! 国境の警備網を突破されたのかッ? 守備部隊は何をしていたッ!」
「も、申し訳ありません!」
「ちぃっ。まあいい。おい、二人とも聞いたか?」
急にロディはこちらを振り返ってきた。言葉とは裏腹にその顔に動揺の色は一切無く、剛胆な笑みが浮かんでいる。
「着任早々で悪いが、初陣だ。一緒に来てもらう」
「りょ、了解!」
「りょーかい」
「それから、報告に来たお前。お前は直ちに手が空いている連中を現場に向かわせろッ! いいなッ!」
「はっ! ただいま!」
敬礼して去って行く兵を見送ると、ロディは隣の部屋に姿を消した。
だが、すぐに何かを担いで出てきた。
「なッ!」
思わず、目を疑った。
ロディが担いでいるそれは、身の丈ほどもあるバスターソード。
重さ二十キロはくだらないであろうそれを、軽々と担いでいる。ロディは特に筋肉質でも無く、ともすれば痩せ型だというのに。一体この身体の何処に、そんな力があるのだろうか。
異世界って不思議だ。
「よっと」
ロディはそれを片手で難なく持ち上げ、背中に斜めに背負った。
「二人とも行くぞ! 俺に続けッ!」
「「は、はいッ!」」
勢いよく部屋を飛び出すロディを追って、僕達も部屋を出た。
「こりゃあ、思ったよりヤバいな」
目的地に到着した途端、ロディがそうこぼす。
街は惨憺たる有様だ。炭化して崩れた建物や、氷漬けになっている騎士団員らしき者の死体。更に、あちこちに住民の死体が転がっている。
躊躇いなく一般人を殺すとは。隣国の魔術結社〈ウリーサ〉。聞きしに勝る残忍さだ。
遠くを見やれば、上がる炎や土煙の向こうに、焦げ茶色のローブに身を包んだ沢山の人影が見て取れる。
状況から察するに、あいつらがこの惨劇を起こした張本人達だろう。
(はぁ。最初は、妹と二人きりのドキドキ☆ワクワク☆ムフフ大冒険になると思ってたんだけどなぁ……)
なんか気付いたら、とんでもない方向に話が進んでいる気がする。
まあいいか。異世界で騎士ってのも、たまには悪くない。
「お前ら………」
ふと、掠’(かす)れた声が聞こえて前を見やる。
土煙の向こうを見据え、仁王立ちしているロディの声だ。
表情は窺えないが、その拳は微かに震えている。隠しきれない怒りが、迸発しているのだろう。
国民を守れなかった上に、部下をも殺されたのだ。騎士長たる彼の悔しさと哀しさは計り知れない。
「お察しするよ、ロディ」
僕は彼の側まで歩いて行き、小刻みに震える肩に手を置いた。
「敵を討とう。僕も全力を尽くす――」
「お前ら、良い攻撃だ! これくらい派手にやってくれねぇと、俺も燃えねぇぜッ!」
「……は?」
いきなり興奮したように叫び出すロディに理解が追いつかず、僕は一瞬呆気にとられ…
「さぁ行くぜ、世界のゴミ共ッ! この俺のバッソちゃんから逃れられると思うなよぉッ!」
「は? バッソちゃん?」
バッソちゃんて、もしかしてバスターソードの呼称? ネーミングセンス、どうなってんの?
そんなことを追及する暇も無く、ロディはバスターソードのバッソちゃんを構え、渦巻く突風を纏ってイノシシのように前方集団に向かって突進を開始。
「てか、怒ってるんじゃなくて興奮してたのかよッ! 紛らわしいわッ!」
やっと理解が追いついた僕のツッコミが、惨劇の空間に響き渡った。
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