第五章14 決意を胸に
重力に従って落ちていく私の身体。
その真下には、地獄の鬼も裸足で逃げ出す灼熱のマグマ。
煮えたぎる地面に、僅かでも触れたが最後。
私の身体は跡形も無く燃え尽きてしまうだろう。
(……くっ!)
辺りを支配する熱気で飛びそうになる意識を繋ぎ、私はやっとの思いで宝石を取り出した。
「しゅ、《珠玉法―翠玉・暴風》……」
爪先が真っ赤に染まる地面に触れる寸前で、風の魔術を起動させることに成功する。
ビュウッ!
突風が私と地面の間に生じ、その反発力で落下スピードが急速に落ちる。
次の瞬間、私の身体は重力の枷を振り切って、斜め後方に吹っ飛ばされた。
一〇〇メートルほど低空を飛んで、元いた場所――レイシアと二人で、テレサに向き合っていた場所まで戻ってきた。
「し、死ぬかと思った……」
灼熱の及んでいない地面に着地して、自分がまだ生きていることを実感すると同時に、全身から冷や汗が噴き出した。
今になって震えが止まらない。
あと一秒風の魔術を起動するのが遅かったら、私は確実に死んでいた。
「本当に、間一髪だったな」
真横からレイシアの声が聞こえて、反射的にそちらを振り向く。
レイシアは私の方を見ることなく、鋭い視線をテレサの方に向け続けていた。
釣られて私もテレサの方を見ると、彼女は赤い地面の中心に佇立して、幽鬼のごとく暗い瞳で、こちらを見つめ返していた。
「しかし、どうにもわからんな」
レイシアの呟きに「何がです?」と問い返す。
「あの女の言動は矛盾してるだろう? 殺す気がないと言いながら、今のは確実に殺しにかかってた。まるで意味がわからん」
レイシアは、やれやれと肩をすくめて見せる。
「それは、確かに……」
レイシアの意見に納得して頷く。
その拍子に、私はあることに気付いた。
(そういえばテレサさん、さっき妙なことを言ってたような……?)
――「仕方ありませんわね。その精神さえ強ければ、ワタクシは貴方を頼ることができましたのに……」――
そうだ。確かにそんな意味深なことを呟いていた。
私を頼るとはどういうことなのか?
そして、私を殺すつもりがないのにも関わらず、あえて殺しかねないことをした理由は――
(もしかして、私を試したんじゃ……?)
ふと、閃光のように閃いた仮説。
私に何かを期待していて、それが戦力面におけることなのだとしたら――殺すつもりが無いのに、私を殺そうとするレベルの攻撃を放ったというのも頷ける話だ。
まだ確証はないけれど、この戦い自体、私やレイシアの実力を推しはかるための試験ではないだろうか?
もしそうだとすれば、その試験をすることで私達に求めていることは一体……?
「まあ奴の考えていることなど、どうでもいいがな」
ふっきれたようなレイシアの言葉に、思案の渦中にあった私の意識が引き戻される。
「奴の目的なんて知ったことじゃない。ただ、余はあの女の鼻を明かさねば気が済まんから、一杯食わせてやるつもりだ」
そんな、真っ直ぐと前だけを見据えるレイシアの姿を見て、私もいろいろと思案するのをやめた。
「そうですね。とりあえず、けりを付けちゃいましょう」
決意を胸に、私は再び臨戦態勢を取る。
聞きたいことは、テレサに勝った後で、じっくり聞いてやろうではないか。




