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第五章13 発動 テレサの秘技

「えぇえええええいッ!」


 雄叫びを上げ、猛烈もうれつな突風が吹き荒れる中を突き進む。

 足を踏み出す度、飛んできた石や土の塊が魔術障壁に当たり、火花を散らす。

 やがて、衝撃波ソニック・ブームが生じる中心地点――レイシアとテレサの魔術が真っ向からぶつかり合っている場所を超えた。


 とたん、風の吹く方向が変わる。

 今まで、炎の渦と氷の槍が衝突しているのは私の遙か前方だった。故に、衝撃波ソニック・ブームは前から押し寄せていたのだ。

 しかし、たった今その衝突地点を越えたことで、今度は背中側から突風を受けることとなったのである。


(この追い風を利用して、テレサさんのところまで突っ込むんだ)


 そう心に決め、魔術障壁は起動したまま一息に駆ける。

 

 女の状態では男より筋力が無いため、必定走る速度も劣る。

 しかし、こうして追い風を背中に受けることで、自分でも驚くくらいの速度が出た。

 彼我の距離が、まばたき一つの一瞬にも、ぐんと近づく。

 距離――八〇メートル――五〇メートル――三〇。

 

「やぁあああああああッ!」


 テレサを攻撃の有効圏内に捕らえたと悟った瞬間、私は我武者羅に懐へ手を突っ込み、宝石を取り出した。

 それをてのひらにのせてから、種類を確認する。

 色彩は――青。サファイアだ。


 殺傷力が低い水の魔術を起動する触媒を引き当てたが、まあ問題ないだろう。

 水の魔術とて、使い方次第で多大なる威力を発揮する。

 それに――


(どのみち、テレサさんを殺す気はないし……!)


 そう自分に言い聞かせるように、サファイアをぐっと握りしめた。

 テレサとの距離は、残り一〇メートル。

 私は、周囲に展開していた魔術障壁を解いた。


 今、私自身が無防備になったのと同時に――私からの攻撃も可能になったのだ。


「《珠玉法シュムック蒼玉サファイ水禍アクア》ッ!!」


 呪文を叫んだと同時。

固く結んだ拳、その指の隙間から大量の水が溢れ出し、私の腕に絡みつく。


「行きますよ!」


 天高く飛び上がった私は、水の絡みついた腕を横薙ぎに振るった。

 すると、その水は私の腕から離れ、円弧状の水の刃となって、テレサへと肉薄する。

 途中、追い風と重力の影響で数段加速し、残像すら見える速度に達した。


 人が高速で水面に叩き付けられた場合、その人はコンクリートにぶつかるのと同程度の衝撃を受けると聞いたことがある。

 故に――この音速を超える水の刃をまともに喰らえば、全身の骨がバラバラに砕けてしまうはずだ。


 避けるなり防御するなり、何らかのリアクションを示さなければならないのである。


(さあ、どうします……!?)


 心の中で問いかける。

 そんな私の心を読んだのか、不意にテレサの古井戸のような瞳がこちらに向けられ――薄い唇を三日月型に歪めた。


(笑ってる……?)


 自身に危機が迫っている状態でも、いつもとなんら変わりの無い表情を見せるテレサの姿に、私は慄然りつぜんとする。


 次の瞬間、テレサは聞いたことも無い呪文を口走っていた。


「《秘技ミスティック削命法レーベン・ラオベン火炎フレイム第六圏ヘキサコスモスインフェルノ墓穴コフィン》」


 不穏な空気を放つ呪文絵をくくりり終えた、その刹那。


 地面が――紅に染まった。

 草花、土、石……あらゆる物質が超高温の炎に溶かされ、煮えたぎるマグマと同化して行く。

 

(こ、これは……!?)


 上空にいる私も思わず失神しそうになるほどの熱気が、地面から放たれている。

 先程放った水の刃など、テレサに触れることもなくあっさりと蒸発してしまっていた。


 更に恐ろしいことに――今現在、私は落下中である。

 このままでは、マグマに浸かって骨まで溶かされてしまうことは、逃れられない確定事項だった。


 テレサに一つ言いたいことがある。

 なんだよ、殺す気満々じゃないか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここにて更に新しい魔術~~~ いずれはカースちゃんくんもこれを扱いこなせる可能性が!?(適当なことを言ってみる)
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