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序章1 男の子になれた!?

「……もしかして、おにい?」

「え? なに?」


 狼狽うろたえる僕の前で、少女の顔が明るくなっていく。

 次の瞬間、いきなり抱きついてきた。


「おにいだよね! そうだよね!」


 胸元に顔を埋め、頬をすりつけてくる謎の少女を前に、僕の心臓は否応なしに高鳴る。


 な、何この状況!?


 ――これが僕と彼女の出会い。

 今思えば、これが波乱の幕開けだった。


 この少女との出会いが、性別の変わる冒険者として、煮詰めすぎたいちごジャムのように濃く、酸っぱく、甘ったるい旅へと僕を引っ張り込んだのだ。



 △▼△▼△▼


「あ、あ、アレがあるぅ!」

 

 草も、木も、湖も。

 何もかもが御伽噺メルヘンのように美しい、転生後の異世界で。

 私はズボンの奥にある膨らみに手を添えて、驚きと喜びに満ちた叫び声を上げた。


 転生前までなかったはずのアレが、確かに股についている。

 

 三度の飯より男になりたい。ことわざが崩壊しかけているが、前世の私を一言で表せば、そんなところだ。

 要するに……転生前の私は女だったのである。


(そうか……願い、叶っちゃったんだ!)


 私は、前世の記憶に思いを馳せる――

 

 高校一年生、十二月。

 好きな女の子に告白した。まあ、ソッコー断られたんだけど。


 佐幸さゆきと出会い、脳天がしびれるかのような衝撃を覚えた高一の春。

 通学路にある書店で「愛し合うカップルになるための教本」なるものを買って、熟読した夏。それを完璧に真似て、デートやらなんやらを我武者羅がむしゃらに繰り返した秋。


 ――なのに。ようやく訪れたクリスマスシーズン。満を持して告白したけど、あまりにもあっさり振られた。


 ――「好きですって言われても……奈津子ちゃん、女の子でしょ? もしかして今まで遊びに誘ったの、デートのつもりだったわけ?」――


 佐幸の、心底人をあわれむような目。

 いや、女子が女子を好きになっちゃいけないの? 最近じゃラノベやエロゲでも、同性愛や百合は高い人気を誇るんだよッ!


 頭に血が上って思わず言いかけたが、そのときはぐっとこらえた。

 力んだせいでおしりに力が入り、危うく下が出かけたのは内緒だ。


 結局、佐幸との恋愛的な関係は、最初から無かった形で終わったのだ。


 だけど私は諦めなかった。

 二人目に好きになった子がいて、即座に告白した。今度もダメ……と思いきやなんと成功した。

 こうしてようやっと私の恋愛はスタートした……と思った私が馬鹿だったようだ。



「ねえ、奈津子ちゃん?」

「なに、美結ちゃん」

「私たち、別れよう」

「……え? どうして? どうしてそんなこと言うの?」

「ごめんね。私、好きな人ができたから」

「私のことは? 私に好きって言ったのは、嘘なの?」

「好きだよ。今までも……これからも。でも……ごめん。私はやっぱり、男の子が好きだから」



 そう言って、恋人としての美結は、私の前から去って行った。

 

 二度の失恋。

 私は、私が女であることを呪った。

 どちらも、「女」であるが故に、恋人としての自分を否定されたんだ。


 そんなわけで、現世に愛想尽きた私は、楽しくもない毎日を送っていた。

 それが原因なのかわからないけど、ある日私は事故にって死んでしまう。

 まあ、どうせ生きる意味を失っていたからいいけど。


 かく、死ぬ間際「男にしてください」と呟いたのは覚えてる。


 

 △▼△▼△▼


 そよ風が頬を撫でるのを感じて目を覚ます。


「何これ」


 起き上がり、まず視界に入ってきたのは物語の中みたいな世界。

 絵の具のように真っ青な空。草原ははるか遠くまで黄緑の絨毯じゅうたんを広げており、横を見れば鏡のような湖がある。


 えーと、これがぞくに言う天国というヤツでしょうか? 

 ところが、すぐにそうでないことを知った。


 魚いるのかな? などと小学生みたいな疑問を抱き、湖畔こはんまで歩いて湖の中を覗いた時だ。


「……はい?」


 思わず変な声を上げてしまった。本来なら私の声は高いはずなのに、風邪を引いたとき以上に低くて、更に間抜けさを強調してしまっている。


 声を上げたのは湖の中に、変な魚がいたとかじゃない。いや、もちろん変な魚がいたら驚くんだけど、変だったのは魚じゃなくて私。


 湖に映る自分の顔が、どうみても自分じゃない。


 歳はたぶん十八くらい。

 私の面影はあるけど、長かったはずの黒髪は短くなっており。眉毛とか目つきとか、その他のあらゆるところも凜々(りり)しくなっている。


 より端的に言うと、湖に映っているのは私そっくりの男の子なのだ。


(これは、もしかして……)


 私は弾かれたように股間に手を置いた。

 ベージュ色をしたズボンの生地の向こうに、確かなふくらみが。

 

 かくして私は、嬉々として「アレがあるぅ!」と叫んだのだ。

 もちろん、驚きや困惑はある。


 「今日から君、男ね」なんて唐突に言われたら、ショックで気を失ってひっくり返ってしまうだろう。


 しかし私は、ショックよりも喜びの方が大きかった。

 当然だ。

 ず~っと男になりたかったんだから。



 男である自分を自覚して叫んだのはいいが、興奮が冷めやらない。

 夢にまでみた、“男の子に生まれ変わる自分”。まさか本当に実現するとは。


 今思えば、死に際の台詞が「男にしてください」はあまりにも間抜けすぎるが、そのお陰でなれたのなら安い代償である。

 

 女であるが故に否定された恋。男になった今、もう否定される心配は無い。なんなら、ひそかに願っていた女の子にモテまくるハーレムってヤツも、夢じゃない!


「《男》か……」


 私――いや、僕は右手に力を込めて曲げてみた。二の腕に乗っている力こぶ。小さいながら、確かにその存在を主張している。


 前世ではいなかったお友達。勘違いされないために言うけど、筋肉LOVEな脳筋女子では無かった。男の子のデフォルト設定である力こぶにあこがれを抱いていただけだ。


「これさえあれば、百人力だ」


 男になったというだけでたちまち根拠の無い自信が湧いてくる。別に男の身体が女の身体より便利という道理は、世の全ての本を探ってもでてこないだろう。ただ、新しい身体を手に入れた高揚感こうようかんは、そういった理性を超えてしまうものだ。


 例えるなら、魔法を手に入れて、勇者たり得る自分に酔っている状態と言っていい。


(さっそくだけど、可愛い女の子捜しとかしちゃう? しちゃおうか!)


 高揚感に浸りながら考える。

 前世で為しえなかった美少女との恋。うん、この身体ならできる!


 少しだけ考えて、女の子と出会おうにも、このメルヘンチックな世界を旅してみないと始まらないことに思い至り、僕は足を踏み出した。

 そのときだ。

 

『そこのイケてるお兄さん、お待ちなされ』

 

 何やらエコーのかかった声がどこからともなく聞こえてきて、僕は思わず足を止めた。

 ……え、誰?

 てか、今イケてるって言われなかった?


 誰だかわかんないけど、なかなか人を見る目がありますね。




挿絵(By みてみん)



お越しくださったことに、心より感謝を申し上げます。


面白い・続きが気になると思いましたら、ブックマーク、もしくは↓の広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★に変えていただけると、大変嬉しいです! 執筆の励みになります! もしお気に召しましたら、是非2話以降も読んでいってください。


2話からは、一気にコミカルな展開が加速します。

ストレスフリーな作品ですので、気軽に読み進めていただければ幸いです。


カース=ロークス

※イラストは其田乃様に描いていただきました。

中性的で柔和な雰囲気です。

無断使用はお控えください。





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― 新着の感想 ―
[良い点] つかみはバッチリな描写です。 女として、そして男として、その微妙な匙加減はおそらく難しいのではないかと思っていましたが、なかなかによく描けていると思いました。 まだ転生後の他者との関わ…
[一言] 読ませていただきました! 個人的に百合は苦手なのですが、後書にもあるようにストレスフリーで読むことができました!どんな女の子に出会っていくのだろうワクワクします! 「アレがあるぅ!」!!
[一言] 続きが気になる内容でした!次も読ませて頂きます!良い点、気になる点は最後まで読んでから書かせて頂きます!
2022/11/21 17:35 退会済み
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