先生
三題噺もどきーじゅうろっこめ。
先生の話。
お題コーヒー・ピアノ・タイムカプセル
先生は、コーヒーが苦手だった。
ココアとかホットチョコとか、甘い飲み物の方が好きなそうだ。
子供っぽいですね―なんていったら
「悪かったな、お子ちゃまで。」
と、ほんとうの子供みたいに拗ねられた。
そういう所ですよ―とは言わなかった。
言ったらさらに拗ねてしまいそうで。
でも先生は、子供なんて相手にならないどころか、大人でもなかなか相手にならないほど、ピアノが得意だった。
テンポの速い曲から、ゆったりとした曲まで。でも、音楽の先生―というわけではないのだ。
―何で、音楽の先生にならなかったんですか?
「音楽、というかピアノは趣味であって、それの教師になろうと思うほど、入れ込んではないからなぁ。」
淹れたてのココアを冷ましながら答える。
―じゃあ、なんで保険医になったんですか?
「ん〜。特にこれといった理由はないんだよなぁ。あえて言うなら、教師になるよりは楽そうだったから?」
なんて、ちょっと笑いながらいった。
―理由が不純ですね。
「お前に会えたから、良いでしょ。」
不覚にも、惚れ直してしまった。
―他の教科の先生になっても、会えたかもしれませんよ?
照れ隠しに、そんなことを言ってみる。
「そうかもだけど、やっぱ今じゃないと会えない気がする。」
何度惚れさせる気だ。この男は。
―でも、ほんとうの理由を教えてくださいよ。
畳み掛けるように問いかける。
猫舌なので、ゆっくりとココアを飲みながら、考える先生。
「んー。じゃあさ、それはお前が20歳になってからでどぉ?」
―何言ってるんですか。今ですよ。今。
頑なに理由を言わないので、逆に聞きたくなってきた。
それぐらい、教えたところで何も変わらないだろうに。
「え〜、お前と俺のさ、タイムカプセル作って、お前が20歳になったら開けよう。そん中にその理由書いた紙入れて。」
―それ、タイムカプセル作りたいだけでしょう。
呆れた声で返す。
ホントに、私より大人なのだろうかこの先生は。
「いいじゃん。タイムカプセル。」
にかっと笑う顔のせいで、さらに子供っぽく見える。
しかしまぁ、これ以上は、何を言っても変わらないと思うので、タイムカプセルを作ることにした。
―先生は、こういう所も、子供っぽいですよね。
ついつい我慢できずにそう、言ってしまう。
「子供が、大人に子供みたいなんて言うんじゃない。」
また、拗ねられた。