表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇の遺跡編
176/181

176話 精霊の執着

 ブラックと舞がバルコニーで話しているのを、精霊は少し離れたところで見ていた。


 何を話しているかまではわからなかったが、その姿を見ていると、やはりチクリとするものを感じたのだ。

 すると、私の事に気付いた舞はブラックから離れて、こちらに来てくれたのだ。


「そうだ、あなたにも話そうと思った事があったの。

 私、しばらくはこっちの世界に住む事にしたわ。

 だから、今までよりは頻繁に森に行けると思うからよろしくね。」


 私はそれを聞いて嬉しかったが、気になることもあった。


「・・・それは、ブラックの城に住むという事ですか?」


「いいえ、私は人間の国に住もうと思うわ。

 ・・・その方がいいかと思って。」


 そう言って、舞の顔が少し曇ったのだ。

 さっきまでブラックと話していたのはその事なのだろうが、あえて聞くことはやめたのだ。


「それより、どう?

 食事を楽しむことができたのかしら?」


 私はここでも人と同じような実体を作ることが出来たが、食事をする事は初めてであった。


「問題なかったですよ。

 食した物がすぐに私のエネルギーに変わるようです。

 でも、美味しさも分かりますよ。

 それに、お酒を飲むと何だかフワフワしますね。」


 私はつい自分の初めて感じた事を舞に聞いて欲しく、話が止まらなかったのだ。

 すると、舞は笑いながら私を見つめてきたのだ。


「ははは。

 いつも冷静な精霊が嘘みたい。

 それだけ、嬉しかったのね。

 本当、良かった。

 これからも、一緒に食事を楽しむこともできるわね。」


 私はその大きく綺麗な瞳を見ていると我慢できず、ついブラックがいようが構わず舞を抱き寄せたのだ。

 そして耳元で囁いたのだ。

 

「舞、今日のあなたはとても素敵です。

 私はずっとこうしたかった。

 ・・・今の私なら舞を守る事が出来ます。

 だから、ずっと私を見ていてほしいのです。」


 私はそう言って、舞の頬にキスをしたのだ。

 ブラックではないがハナと会えなくなった後、私に生きる力を与えてくれた舞を絶対に離したく無いと思ったのだ。

 相手が魔人の王だとしても、これだけは譲る事が出来ないと思った。

 お酒のせいなのだろうか・・・

 私は自分の心のままに行動しようと思ったのだ。


「どうしたの?

 お酒のせいかしら?

 いつも心配ばかりかけてごめんなさい。

 もっと、しっかりしなくちゃね。」


 舞は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに微笑みながらそう言って、広間の方に戻ったのだ。

 どうも、ただの酔っ払いと思われたようだ。

 まあ、それでも私は舞を抱きしめる事が出来て、嬉しかったのだ。

 人と同じような実体を作る事が出来て、舞を抱きしめた感覚がまだ身体に残っていたのだ。

 

 ふと気付くとブラックが真面目な顔で立っていたのだ。

 きっと私に言いたい事があるのだろう。


「舞はこの世界にいれるそうですね。

 私はとても嬉しくて、つい抱きしめてしまいましたよ。」


 私は先にブラックに声をかけると、ブラックは冷静に答えたのだ。


「ああ、今日の舞は誰が見ても素敵だった。

 その気持ちはよくわかるよ。

 森での件では世話になりましたから、今回は目を瞑りますよ。

 でも、私の目の前で舞に触れる事は面白くありませんね。」


「舞は人間の世界に住むと言ってましたよ。

 てっきり、この城に住むのかと思っていたのですが、そうでは無いようですね。

 そうであれば、まだ誰のものでも無いはず。

 ブラックが何か言う権利は無いでしょう・・・

 私は、自分の思うままに行動しますよ。

 もちろん、この国のためと思う事が有れば、力は貸しますが。

 だが、舞の事は別です。

 私も今回は諦めませんから・・・」


 私がそう言うと、ブラックは少し悔しそうな表情をしたが、すぐにまた冷静になり話したのだ。


「・・・以前から知っていましたよ。

 あなたがどれだけ舞を大事にして守ってきたのか。

 でも、私も譲れませんから。」


 ブラックはそう言うと広間に入って行ったのだ。

 

 私はまた少し成長したようだ。

 人と同じ実体を作れただけでなく、このチクリとした物が嫉妬というものである事を知ったのだ。

 精霊という立場では、執着というものが問題である事をよくわかっている。

 だがそんな事よりも、舞と同じ存在で近くにいられた方が、何倍も今の私にとっては大事であったのだ。

 

 今後何が起きようとも、舞を思う気持ちは変わらないと思ったのだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ