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薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇の遺跡編
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164話 犠牲

 ブラック達は精霊の機転で既に別の部屋に移動していた。


 精霊は、まだパラシスが何かを仕掛けてくるのではないかと心配したのだ。

 運良く、精霊の目として動いていた蔓がブラック達を見つける事が出来たのだ。

 そして近くにいたスピネル達が二人を別の部屋に移させたのだ。

 そして、精霊は蔓を使い二人の偽物を作り出し、それをスピネル達にベッドに置くように伝えたのだ。

 よく見れば偽物である事はすぐわかるのだが、パラシスは二人をエネルギーとしか考えていないと精霊は思ったのだ。

 そうであるなら、その蔓から作った偽物にほんの少しのエネルギーを込めておけば、問題ないはずと考えたのだ。

 案の定、パラシスは自分の作った空間のエネルギーを吸収しつくすと、そのエネルギーがブラック達のものかどうかなど、確かめる事は無かったのだ。

 

 舞は精霊からブラック達のことを聞き、ホッとしたのだ。

 すぐにでもブラックに会いに行きたかった。

 しかし、今、目の前にいるパラシスと森の主のやりとりを聞き、思う事があったのだ。

 パラシスの感じた幸福感・・・それは森の主からの感謝の気持ちなのではないかと思ったのだ。

 その気持ちが、邪なエネルギーと一緒にパラシスに入り込んで来たのではと・・・


 パラシスは元々、色々な者のエネルギーを吸い取る事で存在を維持してきた者のようだ。

 そうであれば、エネルギーを吸い取られ、消滅させられる者からは、恐怖や怒りならともかく、感謝やいたわりの気持ちなど感じるわけがないのだ。

 だから、森の主からの幸福感はパラシスが生まれて初めて受け取った未知の感情なのだと思った。

 今は、この気持ちを邪なエネルギーが無くても受け取れた事を意外に思っているのだろう。


 あの時の火山のドラゴンもそうであったが、目の前にいるパラシスもきっと優しさやいたわりの気持ちを知らない存在なのだろう。

 そのまま消滅してしまうには、あまりにも悲しい気がしたのだ。

 やり方が正しいとは言えないが、パラシスはその優しさや幸せな気持ちにもう一度触れたかったに違いないのだ。

 それをどうにか教えてあげたかった。

 良き行いをする事で誰かに感謝されたり、ありがとうと言ってもらう事で、心が暖かくなる事、幸福感を知って欲しかったのだ。


 今回、パラシスが思いがけず受け取った物は、森の主の今までのパラシスに対する感謝の気持ちなのだろう。

 そして、森の主は全ての責任を取る為にも、自分も一緒に消滅に導くつもりなのだ。


 精霊やジルコンが、森の主達に向かう私に危険だと思念で伝えてきたのだ。

 それはわかってはいたが、声をかけずにはいられなかったのだ。

 私は森の主達に向かって歩き出し、こう伝えたのだ。


「大丈夫、二人は生きているから。

 あなたは本当はこんな事はしたくないはず。

 だって、このパラシスに感謝をしているから、今抱きしめてその気持ちを伝えたんでしょう。」


「・・・しかし、二人が生きていたとしても、やはりパラシスは私とこの森と共に消滅するべき存在なのだと思う。」


 森の主は私を見た後目をそらし、パラシスを見つめたのだ。


「そんな馬鹿な。

 確かに私はあの二人のエネルギーを吸収したはず。

 それに、感謝とは何なのだ・・・」


 パラシスが不審な顔で私を見ると、森の主はパラシスをもう一度抱きしめたのだ。

 きっと、先ほどと同じ感謝の気持ちをパラシスに送ったのだろう。


「いや、何かおかしい・・・

 お前が森の主に何かしたのだな。

 お前達が来なければ、私の計画は上手く行ったはずだった。

 他の者のエネルギーを私が吸い取り森の主に与え、そして私に邪なエネルギーと安心や満足感を渡してくれさえすれば、それで良かったのだ。

 それなのにお前達が来たから、この森の主は消滅の道を歩むべきだと考え始めたのだ。」

 

 そうパラシスは言うと、私を睨んだのだ。


「何かを犠牲にするなんて・・・」


 私はそう言った時、ハッとしたのだ。

 私も生きる為に、色々な物を犠牲にして、体に取り込んで生命を維持しているではないか。

 このパラシスも同じで生きていく為に何かのエネルギーを、吸収していただけではないか。

 そうやって今まで生きてきたのだ。

 私の為に犠牲になってきた物など、考えたことなど無かった。

 パラシスが言う事が間違っていると、誰が言えるだろう・・・。


 そう考えていた時、パラシスは左手を私に向け叫んだのだ。


「私の邪魔する者は消えるのだ。」


 まずいと思った瞬間、私の前に大きな影が現れたのだ。

 見上げると、そこにはずっと会いたかったブラックが立っていたのだ。


「舞、あなたはいつも私を心配させますね・・・」


 ブラックはそう言って微笑むと、その場に倒れ込んだのだ。


 私はそれを見て言葉を失ったのだ。

 


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