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薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇の遺跡編
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162話 二つの思い

 森の主がパラシスに近寄ると、結界の中のパラシスは諦めたように口を開いた。

 パラシスは邪なエネルギーを増やすために仕掛けた事はあるが、一番最初はそこまで意図して無かったと話し出したのだ。



 私は、初めて訪れた時と全く違っていた森を見て、何が起きたのか気になったのだ。

 そして、邪な存在になりつつある森の主を見て、今なら取り入ることができると思ったのだ。

 そしていずれはこの森全体を侵食し、再度エネルギーを吸い取ろうと考えていた。


 それまでは本当にどんなエネルギーでも吸収すれば、自分の存在を維持する栄養でしかなかった。

 しかし、この森の主のエネルギーを吸い取り始めた時、一緒にあるもが私の中に流れてきたのだ。

 それは、安らぎや幸福感・・・

 今まで感じたことがなかったものであった。


 そしてそれを何度も味わいたいと思い、邪なエネルギーを増やすにはどうしたら良いか考えたのだ。

 村人の態度が、この森の主に黒いものを増やす元凶となった事を知った私は、村人達を上手く先導したのだ。

 このような森にした責任はこの主であり、責任を取らせるべきだと声を上げるように促したのだ。

 また、安易に近づいてはいけないとも話し、村人と森の主の距離を広げ、ますます孤独になる様に仕向けたのだ。

 そして、頼れるものは私だけであると思い込ませるようにしたのだ。

 そうする事で、簡単に森の主は邪なエネルギーを差し出す事となり、私は難なくエネルギーを吸収することが出来たのだ。

 それも今までとは違った、私の心を満たすような幸福感も併せ持つエネルギーで、私はここから離れることが出来なくなったのだ。


 だが、ここしばらくはそんなエネルギーを頂くことが出来ず、私はとても飢えていたのだ。

 ただのエネルギーでは満足できなくなっていたのだ。

 私にエネルギーを与え続けた森の主もどんどんと弱っていったのだ。

 だから、以前と同じような状況を作る事を考えた。

 そのためのも、魔人達のエネルギーを吸収する事で、弱った森の主を復活させ、邪なエネルギーを作り出して欲しかったのだ。

 私は森の主に、そう本当の事を伝えたのだ。


 これで・・・もう終わりだ。

 ここにいる意味はもうないのだ。

 あの幸福感はもう、二度と得られる事は無いのだろうか。

 やはり・・・このままでは終われない。

 そうだ、あの二人はまだ私の手の中なのだ。

 もう一度だけ・・・

 


              ○


              ○


              ○


 森の主はパラシスの話を聞き、なんて自分は愚かであったのだろうと思った。

 しかし、そこには怒りは無かったのだ。

 先程までは自分の中に久し振りに黒いものが増えていく感覚があった。

 疑いや怒りから邪なエネルギーが増えていく事が止められなかった。

 しかし、急に私は綺麗な金色の光に包まれたのだ。

 それと共に、私の心が穏やかになり、変化した風貌も元の姿に戻っていったのだ。

 初めは何が起こったのかわからなかったが、どうも私の本体である薔薇の幹に何かが起きたようなのだ。

 魔人達が少しの間姿を消した事がわかってはいたのだ。

 多分、彼らが魔法のようなもので、私を落ち着かせてくれたのだろうと思った。

 その後も、パラシスの話を聞いても、心乱れる事はなく、冷静でいられたのだ。

 パラシスが邪なエネルギーを吸い取ってくれた事で、私は自分を保つ事が出来たのは事実なのだ。

 私は冷静に考えると、仕掛けられたものではあったかもしれないが、それに乗せられた自分が弱かったのだ。

 だから、パラシスを責めるだけでなく、感謝すべき部分はあると思うのだ。

 そして、私は拘束している二人を解放するのであれば、このままパラシスを逃そうと思ったのだ。


「パラシス、今捕らえている二人を解放してくれ。」


 私は冷静に話すと、パラシスは黙って頷いたのだ。

 私の力が強ければ、パラシスの空間を消滅させて彼らを助け出すこともできるのに、情けない話なのだ。

 そして私は魔人達を見たのだ。


「先程は、あなた方が私を落ち着かせてくれたのですよね。

 ありがとうございます。

 今は冷静に考える事が出来ます。」


 すると強く美しい魔人が教えてくれたのだ。


「舞のお陰よ。

 私達魔人の力は、相手を攻撃したり、自分を守るだけの事しか出来ないのよ。

 だけど舞の作る薬は身体や心を癒したり、誰かの為になる物なのよ。

 舞に感謝するべきだわ。」


 それを聞いて、この場にそぐわない可愛らしいお嬢さんがいると思っていたが、そう言う事なのかと理解したのだ。


「そうだったのですね。

 ありがとうございます。

 自分を見失わずにすみました。」


 私がそう言うと、そのお嬢さんは大きな黒い瞳をこちらに向けて微笑んでくれたのだ。

 パラシスが二人を解放する為には、結界から出さなければいけなかったので、私は美しい魔人にお願いしたのだ。

 その魔人は了解してくれたが、自然から生まれし者は浮かない顔をしていたのだ。


「それは危険では無いですか?

 もうすぐ私の目となった蔓達が、探し出すと思いますよ。」


 自然から生まれし者はそう言ったが、私はパラシスを信じたかったのだ。

 全てを話してくれた今、彼らを捕らえる理由はもうないのだ。

 私はもう、魔人達のエネルギーをもらっても、パラシスに邪なエネルギーを与えるつもりは無かった。


 もしもの時は、今まで長く一緒にいた私が、全ての責任を取ろうと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 


 

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