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薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ  作者: 柚木 潤
第4章 火山のドラゴン編
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134話 舞の沈黙

 舞が倒れる少し前の事である。

 精霊の空間で舞は自分の計画をみんなに話したのだ。

 

「私はあえて、ドラゴンの攻撃を受けようと思うの。

 そして、ドラゴンに罪悪感や人を思いやる心があるかを知りたいの。

 もちろん危険である事はわかっているわ。

 でも、闇の薬や契約の指輪を使って抑えても、憎しみを繰り返すだけだと思うの。

 そんな事よりも、ドラゴン自身を変える事が出来るなら、それが一番だと思うのよ。」


「舞、それはかなり危険だと思うよ。

 私は心配ですね。

 それも、私が手出しが出来ない状況でだろうし・・・」


 ブラックはそう言ったが、私は試したかったのだ。

 少なくとも、私の前で見せたドラゴンの素顔は悪人では無かったのだ。

 ただ自分の気持ちをどう表現すれば良いか、わからないだけなのだ。

 だから、誰かが教えてあげなければならない。

 楽しみと・・・そして悲しみを。

 そうで無ければ、人の痛みを知る事は出来ないのだ。

 本当は沢山の年月をかけて色々経験するべきなのだけど。


「大丈夫よ。

 私にはブラックがくれたペンダントと指輪があるじゃない?」


 私は笑ってそう言うと、それまで黙っていた精霊が口を開いた。

 

「正直言って良いですか?

 ブラックよりもエネルギー量が多いから、表にドラゴンが出てくるのですよね?

 ドラゴンが本気の攻撃の場合、それだけで身を守る事が出来るのでしょうか?

 安心はできないと思いますよ。」


 精霊の言葉に、誰もが口を閉ざした。

 確かに、それだけでは防御出来ない可能性があるのだ。

 それでも、試して見たかったのだ。


「・・・きっと大丈夫よ。」


 私はそう言って、封印の石と完全回復の薬を精霊に預けたのだ。

 ブラックを含め、みんなは私の言うことに困っていたが、最後は納得してくれたのだ。

 そして、ドラゴンに私の命と封印されたエネルギーを天秤にかけてもらおうと思ったのだ。

 短い間だったが一緒に過ごした中で、私はドラゴンの良心のカケラは必ずあると確信していたのだ。


 精霊に元の広場に戻してもらったとき、すぐにブラックの身体がドラゴンに入れ替わる事はわかっていた。

 怒っていることも想像できたが、まさか精霊の本体であるあの大木に向けて炎の矢を放とうとした事は予想外であった。

 私は計画外に飛び出してしまったのだ。

 あの大木だけは傷つけられたくなかったのだ。

 実は私に向けた怒りを、あえて受けることにしようと決めていたのだ。

 そうであれば、ドラゴンも本気は出さないだろうと思っていた。

 だが、つい身体が動いて、大木の前に後先考えず出てしまったのだ。

 その為、私は予想以上の攻撃を受けてしまったのだ。

 ドラゴンの矢が当たった途端身体が熱くなる事がわかった。

 ブラックのペンダントにより青い光に包まれ、炎を避ける事は出来たが、大きな衝撃が身体中に走ったのだ。

 そして・・・私は一瞬で意識が無くなったのだ。


              ○


              ○


              ○


 

 精霊は焦っていた。

 完全回復の薬を使っても舞は目覚めないのだ。

 見た目はブラックのペンダントの結界のお陰で、問題がないように見えた。

 精霊は舞に触れ、舞の顔色や体の暖かさ、そしてオーラからも生きている事はわかっているのだ。

 しかし、ペンダントが破壊されるくらいの大きな衝撃があったのだ。

 人間の舞には耐えられる事ではなかったのかもしれない。

 舞の言っていた通り、舞の命とエネルギーの一部の取り引きを申し出たのだ。

 そしてこのドラゴンには、舞を助けたいと言う良心がちゃんとあったのだ。

 ここで、舞が目覚めれば問題はなかったのだが・・・。


 アクアやスピネルは精霊の表情から、状況を察したのだ。

 ブラックが恐れていた事が起きたのだと。


「どう言う事なのだ。

 娘は目覚めないではないか。」


 ドラゴンも舞の様子を見て、心配そうに声をかけたのだ。


「ええ、身体に問題はありません。

 ただ、舞の意識が戻らないのです。

 衝撃が強すぎたのかもしれません。

 魂と肉体の絆は途切れてはいないはずです。

 その証拠に、身体は脈打って鼓動もオーラも感じられます。

 ただ、魂が肉体から出てしまったのかもしれません。」


「どうやったら、元に戻す事が出来るのだ?」


 ドラゴンは焦りながら、精霊に食いつくように近寄ったのだ。


 精霊は色々考えたが、この世界の禁じ手と言うべき行動しかないと思ったのだ。

 それを行うには、誰かが犠牲になるしかなかった。

 

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