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薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ  作者: 柚木 潤
第4章 火山のドラゴン編
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133話 良心の芽生え

 我は人間の娘から何かをぶつけられた後、急な眠気とめまいに襲われたのだ。

 そしてあっという間に、立っている事が出来ず倒れたのだ。


 やはりあの娘、舞は普通の人間では無かったのだろう。

 そして気付いた時は、以前と同じ何も無い部屋に隔離されているようだった。

 また、あの精霊の空間に入ったのかもしれない。

 たぶんこの魔人が表に出て、我は外に出れず閉じ込められたような状態なのだろう。

 だが、いつまでもその空間にいるわけにはいかないだろう。

 その精霊の空間から出たら、すぐに入れ替わればいいだけなのだ。


 だが、・・・何だろう。

 以前は閉じ込められた空間にいる事も慣れてしまっていたはず。

 ところが、今はすぐにでも外の世界に戻りたいと思っているのだ。

 ・・・それはあの娘のせいかもしれない。


 あの人間の娘の舞は他の者達と違っていた。

 魔人でさえ、我を見る時の目。

 恐怖を感じている事は明らかだった。

 そして、誰も我を心から尊敬して慕ってくる事は無かった。

 まあ、これだけ強大な我の存在では、うかつに声もかける事が出来なかったのだろう。


 だが、舞は違ったのだ。

 あの娘は我に色々な事を教えてくれたのだ。

 そして弱い人間でありながら、あの娘の目からは恐怖を感じる事は無かったのだ。

 そんな娘だったので、苛立つ事があっても、傷つけたり消滅させようとは思わなかったのだ。

 もしそうしてしまっては、我はきっと孤独を感じてしまうとわかっていたからだ。


 今までずっと封印されていたから、一人でいる事は慣れていたはずなのだ。

 自我を持つようになってからも、孤独など感じる事は無かった。

 だが、舞と過ごした少しの時間が我を変えたのだ。

 世界の全てが興味深く、まだまだ多くの知りたい事が出来たのだ。

 そして何故か舞が我の前からいなくなった事が、ひどく不安に感じたのだ。

 他の魔人が我の世話をしてくれたが、それでは不安が消える事は無かったのだ。

 だから、舞の気配を探りここまで来たのだ。

 もちろん、残りのエネルギーがどこにあるかは気になっていたが、それと同じくらい舞の行方も知りたかったのだ。


 だが、舞は我を何かを使って眠らせたのだ。

 それはどういう事か・・・

 我が舞を傷つけそうになった事で、舞にも他の者と同じように見られてしまうのだろうか・・・

 そう思っていると、急に空間の縛りが消えたのだ。

 我が力を込めると、身体を入れ替わる事が出来、外の様子も目にする事が出来たのだ。

 そこは先程と同じ森の中であった。

 

「いったい我に何をした?」


 我は裏切られた気分となり、舞に対して怒りが込み上げたのだ。


「落ち着いてもらおうと思っただけよ。

 これ以上森を傷めるのはやめて。」

 

 舞には側にいてほしい反面、思い通りにならない事に苛立ったのだ。 


「残りのエネルギーを渡すのだ。

 こんな森などあっという間に燃やす事ができるのだぞ。」


 我はこの広場にそびえ立つ大木に向けて炎の矢を作り放ったのだ。

 すると予想外に木の前に舞が飛び出して、立ち塞がったのだ。

 舞は両手を広げて叫んだのだ。


「そんな事をしては、いけない!」


 炎の矢は舞に当たり青白い光が身体を包んだのだ。

 そして、胸にあるペンダントがパリンと音を立てて割れてしまい、舞はその場に倒れたのだ。


 我は血の気が引いたのだ。

 舞を傷つけてしまった。

 そんなつもりではなかったのに・・・

 

 周りにいた魔人や精霊が舞に駆け寄ったのだ。

 我はどうすることも出来なかった。

 だが、舞がいなくなる事がとても怖かったのだ。

 

「・・・お前たち、どうにかするのだ・・・」


 我も舞にゆっくりと近づき、周りの魔人たちに声を震わせながら言ったのだ。

 魔人たちは黙ったままであり、どうすることもできないようであった。

 それは我も同じで、自己再生能力はあっても、他の者の傷などを癒す力はなかったのだ。

 どんなに強い存在でも我に出来る事はなく、自分の無力感を初めて感じたのだ。

 ・・・ああ、大事なものを失うという気持ちを初めて知ったのだ。

 それも自分の手で失うなんて・・・。


「私なら・・・舞を癒すことができるかもしれません。」


 黙って見ていた精霊が口を開いたのだ。


「ただ、それにはあなたの封印されたエネルギーを使わせてもらうことになります。

 今は舞から私が預かっていますが。」


 我は少しだけ考えたが、それを使う事で舞がもとに戻るなら、それでも構わないと思ったのだ。

 封印されたエネルギーが無くても、ある程度の年月が経てばまた同じくらいの力に戻る事はわかっていた。

 だが、しばらくは完全体での復活は出来ない。

 それでも・・・舞に目覚めてもらいたかったのだ。


「かまわぬ。

 それで、この娘が目覚めるならそうしてくれ。」


 我がそう言うと精霊は黙って頷き、手に金色の光る丸い球のようなものを作り出したのだ。

 そして精霊は倒れている舞にそれを押し付けると、舞の身体が優しい光に包み込まれたのだ。

 我は初めて思ったのだ。

 自分のためでは無く、他の者のために我のエネルギーが役立ってほしいと。


 我は舞に目覚めて欲しかったのだ。





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