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薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ  作者: 柚木 潤
第3章 翼国編
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105話 異世界転移ならず

 舞が自分の世界に戻ってから、一ヶ月ほど経った頃である。


 いつもの生活に戻ってはいたが、私は転移していた異世界の事が頭から離れなかった。

 カクからは以前と同じように、こまめに手紙が届いていた。

 もちろん、向こうの世界では時間の流れが違うので、三ヶ月くらいは経っているのだが。


 私はいつものように調剤薬局の業務が終わると、カクからの手紙があるかと本店にある祖父の本棚の前に立った。

 誰もいない事を確認すると、秘密の扉の前の厚手の本をどかそうと手を伸ばしたのだ。

 その手にはブラックから貰った綺麗な指輪が光っていた。


 私はそれを見るたびに、次にブラックに会えるのはいつだろうと、ため息が出てしまうのだ。

 こっちの生活もあるので、そんな簡単に会いに行くわけにはいかなかった。

 それに転移のためには光の鉱石の粉末が必要なのだ。

 しかしその採掘には時間がかかり高価な物であったので、簡単にカクにお願いするわけにはいかなかった。


 私はまたカクの愚痴が書いてあるだろうと思いながら、いつものように白衣のポケットから鍵を取り出し、扉を開けたのだ。

 そこには転移してきた茶色い布袋があったのだが、目の前であっという間に燃えて灰になってしまったのだ。


 よく見ると全てが燃え尽きたわけではなく、灰の中に光る粉末が混ざっていたのだ。

 多分茶色の布袋の中に、光の鉱石の粉末とカクからの手紙があったのだろう。

 だが、どう言う訳か鉱石以外は燃えてしまったのだ。

 この扉自体に問題が起きたのか、それともカクの世界に何かあったのか・・・


 私は急いでカクに向けて手紙を書いたのだ。

 こっちの世界にもある、転移の模様が縫い込んである袋に入れて、扉を閉じた。

 しかし3日たっても、その袋が動く事はなかった。

 つまり、向こうで扉を開ける事がなかったと言う事なのだ。


 カクが返事をくれないなど、今までに一度も無かったのだ。

 それに扉さえ開けないなんて、おかしい。


 きっと、何か大変なことが起きている気がして、私は居ても立ってもいられなかったのだ。


 私は自分の部屋にある、古びた書物に挟んでおいた布を取り出したのだ。

 それは転移の魔法陣が描かれている布なのだ。

 もしかすると、こっちも使えなくなっているのではと、試してみることにした。


 光の鉱石の粉末を自分に振りかけて無駄にするわけにはいかなかったので、魔法陣の中心にハンカチを置いてその上に灰と混ざっている粉末をかけてみたのだ。


 本来なら中心に粉末が集まったかと思うと、魔法陣にあるものと一緒に消えて転移するはずなのだ。

 ところが予想通り何の動きも無かったのだ。

 やはり、向こうの魔法陣の布も焼失している可能性があるのだ。


 私はもうあの異世界には行く事が出来ないのだろうかと、愕然としたのだ。

 二度とブラックやカク達にも会えないなんて想像できなかった。


 その時である。


 私の胸元が温かくなったかと思うと、優しい光が現れたのだ。

 その光を発する物を袋から手に取りだし、思ったのだ。


 そうだ、まだ私には出来る事があるはず。

 それにブラックから貰った約束の指輪もあるのだ。


 みんなの所に行かなくては・・・




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