10話 異世界到着
綺麗な光る粉を頭上に振り撒いたあと、辺りは光で包まれ、あっという間に何も見えなくなった。
その後、光の霧が消えると、見覚えのない部屋に立っていたのであった。
足下には舞の部屋でも使用した、同じ模様の魔法陣の布が置いてあったのだが、色合いが少し違って見えた。
辺りを見回すと、部屋にはたくさんの本が並べられており、その奥は倉庫になっているようだった。
なんだか、映画で見たことがあるような世界に入った気分で、不安など全くなく、ワクワクした気持ちになっていた。
机の上に置かれた書物に目を向けてみた。
全く見たことが無い文字で書かれていたのだが、その中に自分の持っている古めかしい書物にもあった文字を見つけることができたのだ。
自分は無事、異世界に来たんだと実感したのである。
倉庫の方に行ってみると懐かしい匂いを感じた。
大量の瓶の中に、乾燥してある植物などが保存され並べてあるのだ。
それは、舞の好きな漢方薬の匂いに似ていたのである。
植物だけでなく、色々な岩石や砂なども保存されており、見たこともない、不思議な色をしているものもあった。
一部は鍵のかかった戸棚に厳重に保存されているものもあり、よく見ると舞の世界に送られてきた砂と同じようなものが置いてあったのだ。
手の中にある綺麗な光る砂と見比べていた時、静かに薬草庫のドアが開いたのである。
舞が振り向くと、そこには一人の青年が驚いた表情で立っていたのだ。
初めての異世界人は、舞の世界ではイケメンと言われる部類に入る、整った顔の青年だった。
細身で頭は良さそうだが、体力はあまり無さそうな優等生タイプの青年に感じた。
もちろん、自分と同じ人間であり、安心したのだ。
服装はどこかの学校の制服を思わせるもので、舞よりも若く感じた。
自分から声をかけようと思ったが、自分の言葉がはたして通じるか心配となり、黙って青年を見つめたのである。
ただ、カタカナの手紙が来たのであるから、少なくとも手紙の差出人との意思疎通は問題ないはずと考えたのだ。
「誰?どうしてここに?」
青年は驚いた表情のまま、聞いたことのない言葉を発したのだが、不思議なことに、舞はその直後すぐに何を言っているかが、理解できたのである。
まるで言葉で発したことが、思念として伝わってきたようだったのだ。
舞は安心して答えたのだ。
「私は舞。マサユキおじいちゃんの代わりに別の世界から来ました。」
警戒している青年にむけて、とりあえず、ありったけの笑顔で話しかけたのだ。
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カクはここ数週間ほど毎日のように扉の中を確認しに来ていたのだ。
祖父であるヨクが以前そうだったように、扉を開けては手紙が動いてない事に落胆していたのだ。
やはり連絡を取ることは無理なのかと、思い始めていたのである。
しかし、幸いな事に洞窟の出現後、今はまだ大きな動きもなく、警戒を強めるのみになっていた。
もちろん、王様と薬師達とで洞窟の移動や消滅方法なども考えられていた。
岩山ごと破壊するか、大型魔法陣を使い海などに移動させ沈めるか・・・・。
どれも出来そうには思えたが、もし魔人が作り出したものであれば、簡単に防御されるのではないかとも考えられた。
また、魔人達が現れたとしても、襲撃目的ではなく友好を求めてくるかも知れないので、こちらから先に攻撃するべきではないとの意見もあった。
そんな中、1週間前のことである。いつものように薬草庫の秘密の扉を開いた時である。
祖父が入れたはずの古びた布袋が消えていたのだ。
最近はこの扉の鍵はカクが持っていたため、誰も開ける事は出来ないのだ。
ついに向こうの扉が開いたんだ!
祖父に急いで伝えに行くと、今後マサユキがいつ来てもいいように準備をするようにと。また、手紙が来るかもしれないから、毎日扉の確認をする事と、指示を受けたのである。
祖父は王様であるオウギ様や他の薬師の長老達と連日集まっていたため、マサユキについては、カクに任せることにしたのだ。
そして今日、いつものように秘密の扉を確認するために薬草庫に訪れたのである。
マサユキが来てるのでは?との期待を込めて、ドアを静かに開けたのである。
そして、カクがドアを開けた時、奥の倉庫に人影が見えたのだ。
そこにはカクが想像していた人物とは全くかけ離れた人が立っていたのだ。
カクは祖父と同年代の薬師の長老のような人物を想像していたのだ。
本来のマサユキであるなら、その通りであるのだが・・・
その奥の人影は薄水色の綺麗な服を着ており、手のひらが優しく光っていた。
そして、振り向いた人物は長い黒髪を一つに縛っている細身の色白の女性であったのだ。
顔を見ると吸い込まれるような大きな黒い瞳で、カクの世界では少し幼く見えるようで、自分よりも年下の少女に感じたのだ。
そして、何か言いたげに、自分を見つめているのだ。
彼女は明らかに、この世界の人物では無い雰囲気を持っていたのだ。