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担任教師に問いただされたんだが!?

「あ〜、なるほどそう来たか」


 城端(しろはた)先生は顎に手を当てながら考え込んでいる。まぁ予想通りで当然の反応だ。誰だっていきなり「幽霊に取り憑かれました」なんて言われたらこうなる。俺だってなる。寧ろ考えてくれてるだけ良心的だ。


「あの、城端先生……信じられないと思いますし、信じさせる道具も持ってないんで、無理なら無理って言ってくれてもいいんですけど?」

「待て黒薙(くろなぎ)、ちょっと待て。今なんて言うべきか考えてるから」


 城端先生は暫し困惑顔で色々な方向を向いた後、辿々しく質問をしてきた。


「その幽霊というのはあれか?『恨めしやぁ〜』的なあれか?」


 両手を胸の位置まであげ手首を折り曲げるそのポーズは古くないですか? という言葉は飲み込む。


「いや、そういうのじゃないですね。なんかその……あーっと……」

「ん、どうした? 言いにくい幽霊なのか? まさか卑猥な──」

「違う違う違いますって! ……幼馴染なんですよ、その幽霊……。しかも俺の元にきた理由がその……遊びにきた、とかで……」


 幼馴染が幽霊になって遊びに来たという意味のわからない発言に、城端先生は呆然としていた。


「……今のが本当だとするならばあれだな、その子は相当変だな」

「はいめちゃくちゃ変です」

「あたしの味方ゼロっ?! ねぇなっくん、せめて笑って濁すとかしてよぉ〜!」

 さっきまで大人しく聞いていた八重洲(やえす)がここで割り込んできた。肩を掴んで揺らそうとしているが、すり抜けるので全然揺れない。……俺はその手に合わせて少しだけ揺れた。


「……今そこにいるのか? その子」

「いますよ、味方がいないってんで絶賛ぐずり中です」

「あぁ、それで揺れているのか……ふふっ、君らしいな」


 別にこれは俺らしい行動ではない。揺れているのは携帯の着信音が頭に流れたから乗ってるだけだ。断じてそういうのではない。


「もしかしてだが、急に意識が無くなったり小矢部達を返り討ちにしたり、教室に駆け込んでいきなり『キャピっ!」って感じのポーズをとっていたのも全部その子か?」

「キャピって。まぁそうなんですけどね、なんで実演するんですか」


 本来なら痛く見えるのかもしれないが、自然と可愛く見えてしまったのが腹立たしい。


「……ゔゔんっ! と、とにかく事情は一応理解した。今朝の行動はそれこそ幽霊か人格が入れ替わらないことにはありえないものだったからな。……だがどうしよう、理解したはいいが解決策が思いつかん。これでは私意味ないな……」


 城端先生は眉間にシワを寄せながら頭を掻いた。身内でもないのにここまで親身になってくれるとは、ちょっとおかしいんじゃないかってくらいいい人だなほんと。


「……八重洲、憑依してくれないか?」

「うん、そういうと思った!」


 こうして俺の意識は途絶える──


 一瞬と閉じた目を開け目の前の先生を視界に移したあたしは、何を話すべきか悩んだがひとまず挨拶から始めることにした。


「《──こんにちは先生! あたし八重洲飛鳥って言います! 出身は東京7月7日生まれの享年16歳! 好きなものはタピオカで部活は柔道やってました! なっ君……黒薙君とは幼馴染です。よろしくお願いします!》」


 とにかく元気よく挨拶をした。この人の中のあたしはクレイジーなはた迷惑少女だと思う。……まぁ否定はできないんだけど……とにかくなっ君が嫌われたくないって人にあたしも嫌われたくない。それにさっきのやり取りを見てるだけで分かる、この人はいい人だ。そんな人にあたしだって嫌われたくない。身勝手だけどそう思った。


「えっと……黒な──じゃないんだよな、八重洲さん、だっけ? 君が黒薙に取り憑いている幽霊か?」


「《えっ、信じてくれるんですか?》」


「信じる信じないというか……黒薙なら嘘でもタピオカが好きだなんて言わなそうだし柔道なんて絶対に好きじゃない。寧ろ嫌いだろ。誕生日にしてもそうだ、7月7日なんて記念日、あの子は嘘をつく時七夕とかそんな日は避けるだろうしな。それにそのテンション高い言動、それこそありえないし。まぁ以上のことから信じざるを得ないな、という感じだ」


 この先生……この先生……!


「《ーーすご〜いっ! なんであれだけのことでそんなに分かるの?! 親が探偵とか!》」


 あたしはあまりの興奮に思わず目を輝かせ顔を接近させる。鼻息もたっていたと思う。


「……っははっ! 聞けば聞くほど信憑性が増すな、黒薙なら絶対に言わなそうだ! ははははっ! はぁ〜──え〜っと、八重洲、突然だが……君は黒薙にとって害悪な幽霊か?」


 さっきまで大笑いしていた人と同一人物とは思えないほど静かに、そして冷くも見える目であたしを見る先生。当然だ。


「《悪い霊……って言えばそうなのかもしれないです。突然憑依しちゃったし、防衛とは言え暴力事件手前のことやっちゃったし、教室ではおかしなポーズとってクラスのみんなに笑われちゃってたし……だからいい霊、では少なくともないと思います。あっ、でも安心してください! 恨みとかゼロなので呪いとか一切ないですよ!》」


 ここは全力で否定しておく。そうじゃないと心配をかけてしまうからだ。

「なるほど…………八重洲、1つ訂正するが、あれは暴力事件手前じゃない、暴力事件だ。双方何も訴えがないから特に波風が立っていないだけでな」


「《へっ?いきなり何をーー》」


「それと迷惑かけていると思っているのなら黒薙にはそれをちゃんと伝えるんだぞ! じゃないと私が怒るからな。はいっ、私からの話は終わり! じゃあ次は──」


「《え、あ、いや……あの、いきなりどうしたんです? それに……気持ち悪かったりしないんですか?》」

 突然放たれた怒涛の説教と進言。あたしは意味が分からなかった。


「まぁ、なんだ……君が「悪い霊じゃない!」ってキッパリ言っていたら私は君を黒薙から出て行かせるため全力を尽くしただろう。悪を悪だと認識していないことほど厄介なものはない。だが君はそれを言わなかった。濁した、とも言えるのかもしれないが、私にはそう見えなかったのでね。こうやって言いたいことを言って、次の段階に進もうと思ったんだ」


 私は、なっ君がこの人を信頼して、嫌われたくないって思った理由が分かった。この人に嫌われるんだったら、もうそれは自分が悪いんだろうと素直に認めてしまうほど、厳しくて優しい人だ。もし同級生だったら告白しているかもしれないという程度にはもう好きだ。


「《その……ありがとうございます!》」

「その体で謝罪をするな、頭を下げるな。理由は分かるな?」


 そっか、忘れてた。これなっ君の体なんだよね。だったら確かに頭なんか下げたらダメだ。なっ君は被害者側なんだから。


「《はい、すいま……わかりました! それで、次の段階って……》」

「1つ聞いておきたいんだが、黒薙は元々幽霊が見えたのか?」

「《うぅ〜ん、どうなんでしょう?見えてないと思うけど……あ、本人から聞きます?》」

「そんなスイッチひとつで簡単切り替えみたいな感じなのか?……まぁそうだな、本人に聞こう」

 あたしはなっ君の体から離れ、意識をなっ君に返した。


 ──ああこの感じ慣れない。なんかこう、何かが抜けて時間が飛んでいるような感じ。慣れたくもないが。

 そしてその後八重洲との初会話はどうなったのか、そして今後どうするのかを聞くことになったのだが1つ、聞いていかねばならんことがある。


「俺、というか八重洲変なこと言ってませんでした?」

「変なこと……は言っていないが、変な子ではあったな」

「え”っ……そう思われてたの……!」


 八重洲がショックを受けている。一応彼女の反応を教えようとした時──


「だが、いい子だとも思ったよ。あと可愛らしい子だとも思ったな」

「し、城端先生〜!」


 元気取り戻したし言わんでいいか。それは野暮ってものだ。


「で、俺が幽霊前から見えてたかって話でしたっけ?」

「ああ、八重洲が憑いてから見えるのか、以前からなのか知っておきたくてな」

「見えるようになったのは八重洲がとり憑いてからですね。正確にいうなら2回取り憑かれてからです。さらにいうなら八重洲以外は見えないですね」

「ほぅ、それは都合がいいな」


 都合がいい? これがエロ野郎ならパンツ目的か?! となるが城端先生だ、それはないだろう。であればなんだ? 皆目検討がつかない。


 と、俺が疑問に頭を悩ませていると、城端先生はあたりをキョロキョロとし始めた。


「八重洲、そこにいるんだよな? だったら──私に取り憑いてくれ!」

「「はい?」」


 幼馴染2人の久しぶりの意気投合は、たった2文字の疑問形だった。


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