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謎の依頼を告げられたんだが告げられたんだが!?

 昨日はごめん。まるで待ち合わせにでも遅れたかのような軽さで衝撃的な言葉を呟いた幽霊少女の石動(いするぎ)(ともえ)


 全く面識がないのに名前を知られていること、そしてそれ以前に昨日この人になにをされたんだ? という恐怖感が俺を支配している。


「えっと、とりあえず椅子を準備しないとね。少し待っててくれますか?」


 (みなと)はおどおどしながらも立ち上がり依頼人を向かい入れようとする。するとその提案を石動さんは拒否をした。


「あ、椅子とか準備しないでいいよ。どうせすり抜けちゃうし」


 その瞬間、俺の中の感情は昂り、気がつけば八重洲(やえす)に話しかけていた。


「おい八重洲みろよ、あれが幽霊ってやつだぞ!」

「あんれ私も幽霊なんだけどな?」


 他人から見えず、生き物には触れることができないと言うことしか人間と違わない……よく考えりゃ結構違うな。ごめん八重洲。


 1人でのアホみたいな反省会を終わらせた俺は、とりあえず俺たち3人の前に来てもらい、話を聞くこと。まずは俺のことを知っていた件と謝罪された件について問い詰めることとした。


「あ、えっと石動さん? なんで俺のこと知ってんですかね? あったことありました? それに昨日はごめんって一体……?」

「えっとね、まずあたしは死んじゃってからずっと久哉の近くにいたの。近くといってもちょっと離れて見てるって感じね。で、久哉(ひさや)黒薙(くろなぎ)くんが結構頻繁に喋ってるのを見かけてさ、それで昨日君の後をつけてみたんだよ」


 なるほど。わかったけどわからん、というかわからせないで。まず久哉ってのは(つるぎ)のことだよな? 死んでからずっと見てたってとこからちょっとあれなんだが、まぁそこはいいさ。問題はここからだ。俺の後をつけた? なにそれ怖いんですけど。俺の人生初のストーカーは幽霊でした! ラノベでありそうだな。


「ってアホなこと考えるな。それで、俺の後をつけてどうしたんです?」


 石動さんのこれ以上おかしな部分が出てこないことを祈りつつ、俺は決め手の質問を投げかけた。そして返された答えは、複雑怪奇にして俺がすでに体験していることであった。


「いやぁ〜ね、黒薙くんの家に入ったらちょうど寝ててさ、毛布もかけずにそのままだったから何かかけるものないか探したんだよ。その途中に『そういえば幽霊だから触れないじゃん! ははっ! こりゃ失念!』って言いながら振り返ったら転んじゃってさ、そしたらあら不思議! 君の中にはいちゃったんだよ」

 まるで他人事のような軽さで説明を終えた石動さん。いっている内容は引っかかる場所が多数あったが、一応状況は理解できた。


 つまりこの人は俺の家に不法侵入をした結果トラブルで俺に憑依してしまったと言うことか。

 1人で納得をしていると、石動さんは話を続ける。


「あたしなんでそうなったのかはわかんないんだけど、黒薙くんに憑依した瞬間にいろんな映像が流れてきたんだよね。多分きみの記憶かな? その中で幽霊の相談に乗ってくれるって言う部活に所属してるって知ったからさ、思い切って来てみようかと思って。そうだ安心して! 憑依したのも一瞬だったし、全部の記憶は見てないから」


 両の掌をこちらに大きく振り、否定の意思を示す石動さん。俺はこの人にどことなく既視感を感じる。その答えはすぐに判明、と言うか隣にいた。


「あぁ、八重洲に似てんのか」

「ほぇ? 私がどうしたん?」


 突然名指しされた八重洲は、私何かやりました? と言いたげな表情を浮かべている。


「悪い、石動さんの話を聞いてたら八重洲を思い出してな」

「私を思い出したって、何か共通点……女子だから?」

「共通点少ねぇなおい。だとしたら湊を思い出さないのはおかしいだろ。じゃなくてもっと特徴的な類似点があんだろ?」


 共通点探しゲームがあったら絶対に負けてるであろう八重洲の発言を否定した数秒後、俺の質問を答えたのは湊だった。


「幽霊ってことでしょ? と言うかそれ以外なんで出てくるのよ」

「あ、なるほどね。確かにそうだった」


 呆れながら正解を答える湊と、本気で幽霊である自覚がないのかはっとした表情を浮かべる八重洲。


「さっきの石動さんの話で疑問が全部繋がった。昨夜寝た瞬間に意識がプツリと切れたこと、剱と石動さんが夢に出て来たこと、そして何より霊感のない俺が今こうして石動さんを視認できているのは全部八重洲で体験したことだ」


 八重洲に憑依されたことで幽霊が見えるようになったのかとも思ったが、今まで八重洲以外の幽霊を見たことがない。湊曰くこの学校にも幽霊は数人いるらしいが全く見たことがなかった。今回のことで確信したが、憑依されないと幽霊を視認することができないと言うことだ。


 それに昨日の夢、あれも思い返せば八重洲の夢を見ていた時と似ていた。もしかすると幽霊に憑依される、もしくはずっと近くにいられるとその幽霊の記憶が見えてくるのかもしれない。

 そんな考察を自分の中で終えた後、俺が完全に失念していたとある問題を八重洲が石動さんに尋ねる。


「あのさ石動さん、なっ君の記憶見えたんだよね? じゃあさ、私たちと剱君が話してるとこ、見た?」

 その瞬間俺と湊はハッとする。剱は石動さんのことが好きだといった。そしてそのことを伝えるため幽霊として呼ぶことはできないかと俺たちに相談を持ちかけた。それが当の本人石動さんにバレた可能性があるのだ。


 バレたからといって致命的に何かが悪くなると言うわけじゃない。しかし勝手に気持ちを伝えられた剱はどうだ? 勝手に思いを知られもし仮に勝手に振られでもしたら……


「それはダメだろ流石に」


 もう幽霊となってしまっている石動さんに、剱が思いを伝えようが伝えまいが結局どうにもならない。しかし、どうせどうにもならないのであればどうにか告白だけでもさせてやりたい。

 そんな思いを胸に、俺たちは石動さんの答えを待った。態度には出さないものの、心の中で祈願する。こんなもの意味がないかもしれないが。

 そして不思議そうに顔を傾かせた石動さんが告げた答えは──


「へ? 久哉この部活来てたの? なにしに?」


 俺たちは胸を撫で下ろした。ずっと近くにいたと言っても24時間べったりというわけではないだろう。石動さんが知らないのは恐らくそのためだ。


 俺と湊は石動さんに勘ずかれないように小さく息を吐く。しかしここにバカがいた。そう八重洲である。八重洲はそんなことお構いなしに大きく息を吐いた。


「ハァ〜よかったぁ〜!」

「バッカお前! ちょっと黙ってろ!」

「ンボっ!」


 俺は八重洲の口を手で塞ぐ、ことはできないので、仕方なく近くにあった鞄で口を塞いだ。仕方なくだ。あまりの無配慮にちょっとむかっとしちゃったってのは関係ない。

 俺に口を押さえられモゴモゴしている八重洲は何度か俺の手を叩こうとするも全てすり抜ける。というわけでギブアップは無効であり、俺はこの鞄を離さないことに決めた。どうせ幽霊だし窒息とかないだろ。


「剱はあれですよ、俺たちの活動に興味を持ってくれたみたいで、ちょっと見学に来てくれたんです! ですから特になにもないですよ!」


 俺は普段しなれない作り笑顔を全力で行い、できるだけ真実に近い嘘をついた。

 実際は見学ではなく依頼なのだが、まぁ部室に来る客って意味では依頼も見学もほとんど同じようなもんだろ。ニアイコール、いや、もはやイコールだ。


 普段見せない不慣れな笑顔に左隣の湊は若干哀れんでいるような苦笑いをこちらに浮かべていたが知るか! そんなもん気にして真実を言うよりはマシだろうが!


 そんな思いを乗せた眼差しを湊に向けた後、ぎこちない眼差しを前方の石動さんに戻す。すると彼女は、最初こそ怪訝な表情を浮かべてこそいたものの、「まぁいっか」と言って身を引いてくれた。適当な人で助かった。


「湊、本題頼む」

「えぇ、お疲れ様。その50カウント目の幽霊少女はそのまま押さえててね」


 50て。もうそんないってたんだな。忙しいやっちゃ。

 というかなんで数えてんだよという当然すぎる疑問は今は邪魔になると判断した俺は、仕方なくそのまま湊に話を促し、そのまま鞄は押し込み続けた。


「石動さん、早速だけど本題に入ってもいいかしら?」

「はい、お願いします」


 石動さんは湊の大人びた雰囲気に少し臆しているのか、俺の時とは違い表情や態度が固かった。気持ちはすごいわかりますけどね。


「この部室に来たということは成仏できない未練を解決したいということだと認識しているだけどそれでいいんですよね?」

「そうですね。昔から後悔してることで、死んでからもっと後悔したことですよ」


 生きていれば後悔することはたくさんあるだろう。この世界はたらればでできており、最良の選択をしたと胸を張って言える瞬間が果たして何回あるのだろうか? 

 あの時真面目にやればよかった、もっと勉強すればよかった、あんな行動取らなきゃよかった、など、あげればキリがない。お題、後悔していることで山手線ゲームをやれば80周はいくんじゃないだろうか?


 人生生きていればその後悔を生かせる瞬間がやってくるかもしれない。しかし石動さんは幽霊である。その後悔を晴らすことすらできない。

 そんな彼女がたまたま知り得たこの部活を頼りに来てくれたのだ。これは解決せねばならない。俺たちは石動さんの言葉に耳を傾け、八重洲に押し当てていた鞄もいつの間にか手から離れていた。


「あ、あははは……こんなに注目されると話しにくいなぁ」


 石動さんは苦笑いを浮かべながら後頭部を静かに掻いた。そして少しの間の後、ようやくその口を開口した。そして放たれた言葉は、斜め上予想外のものであったことは否定のしようがない。


「実はあたしね──ハンバーグ作りたいんだけど」


 その瞬間、その場にいた石動さんを除いた全員の時が止まり、動き出したかと思えば一斉に1文字を呟いた。


「「「ん?」」」──と。


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