過ちは二度繰り返されるんだが!?
不思議な夢の不思議な言葉。俺の過去の記憶がぐしゃぐしゃになっているのならこの夢はありえない。なぜなら俺には料理を作りにきてくれる異性などいなかったからだ。……まぁ今はいるが。死んでるがな。
夢に出てきた剱と知らない女生徒。あれは一体なんだったのだろうか? そんな疑問がぐるぐると巡っている俺の目を覚ましたのは、耳元で鳴り響いた爆音のアラームだった。
「うっさなんだこれ!」
反射的に起き上がり辺りを見渡す。こんなに爆音にしたか? と思ったがやはり俺ではない。根拠は音だ。
いつも俺は着信同様アラーム音は『おジャ魔女』にしている。しかし今回鳴り響いたのはおジャ魔女ではなく、俺的このアラーム誰が設定するんだよランキング第1位のスローライズだった。
「んだよこれ? はぁ〜……ねむ」
寝起きということもあり、あくびをし半開きの目を擦りながら爆音の先へと手を伸ばす。
とその時、手を伸ばす過程で「きゃっ!」という女子の声が聞こえる。少し目を凝らすとそこには薄ぼんやりと女子の影が見えた。漫画やラノベならここに本当に女の子がいて、『胸を触ったキャ〜すけべ〜』展開だ。しかしこと俺に限ってはそんなことはありえない。なぜなら──
「おい八重洲、お前体触られねぇだろ」
「キャ〜……あっ、確かに」
そう、俺はそんなことはありえない。なぜなら目の前にいる女子には触れられないのだから。あるとすればせいぜいパンツが見える程度で、胸に手が当たることはなければビンタをされることもないのだ。
「このアラームお前だろ? うるさいんだが」
鳴り響く端末の音を完全消去した俺は、あくびをしながら立ち上がった。さっきアラームを止めるときに時間を見ると、7時ジャスト。そこそこゆっくり準備できる。
「ん? なっ君LINE見てないん?」
「見てねぇよ。あの後ほんとすぐに寝たからな」
「そうなんだね。じゃあ今からでも見ることをお勧めするよ」
携帯を触りながらそう言った八重洲。朝からあまり使いたくはないのだが、見ろと言われてしまえば見るしかない。
俺は渋々携帯の画面、もといLINEを開いた。するとそこには未読1件のマークが。
「なんだ、昨日連絡来てたのかよ。おっ、湊からか。なになに……7時45分までに学校図書室集合。なるほど。よく短くまとめられた文章だ。八重洲も見習えよ」
「なんで私いまディスられたん? 私だって業務連絡ん時くらいちゃんと送るって!」
頬を膨らませながら反論する八重洲。俺はそれを片手間にあしらいもう一度画面を見つめた。
「えーっと、7時45分集合で、現在7時ジャスト。んで学校までは30分かかる、と……おい八重洲、だとすりゃ起こすの遅ぇよ何やってんだ?」
「ご、ごめん……これって私のせいなん?」
くそっ、あと50分は余裕ある想定だったせいで体が動かん。どうしても動く気になれない。
「仕方ない。おい八重洲」
「ん? どしたん?」
俺の焦った方がいいのかなぁ〜という気持ち、略して焦る気持ちをよそに八重洲はテレビのリモコンに手をかけていた。
「俺は今から着替えるから、それが終わったら憑依して代わりに学校行ってくれないか?」
「うんいいよぉ! それじゃ、早く着替えてきてね!」
手を振る八重洲に送られ、俺はとりあえず洗面所に向かった。少しでも目を覚ますためだ。
「あぁねむ……寝ないのもアレだが寝過ぎもダメだな。そういやこんな早くに学校ってなんなんだ? 今までこんなことしたこと──……初依頼、そういうことかもな。だとすりゃ俺が早く行かねぇとダメか」
さっさと着替え7時7分。急いで歯を磨き、荷物も確認出発準備完了だ。
「うし、行くぞ八重洲」
「りょ! だいぶ時間に余裕あるしゆっくり行くね!」
「いや少し飛ばしてくれ。やることができた」
着替えを終え、荷物を持ち、携帯はポケットに入れた。そして八重洲が憑依し意識が途切れる直前──ほんの一瞬、家に誰かがいた気がした。
次に目を覚ましたのは学校図書室だ。いまだになれない憑依後の気持ち悪さを抱えながら携帯を取り出す。時刻は7時30分。想定よりも早かったことに若干驚きつつも、そんな暇はないので俺は早速散策を始めた。
「ねぇなっ君、どんな本探してんの?」
「降霊術に関する本だ。今読めなくても借りて授業中や休み時間中に見ればいい」
「授業中が頭にくるのがなっ君らしいなぁ。まぁでも確かにそうだ」
授業中が先頭に来てしまったのは完全に無意識だった。これはアレだろうか、深層心理とかいうやつか?
いずれにせよ早めに見つけときたい。そう思い周囲を見渡していると、『オカルト』と書かれたタグを発見する。
「湊的には幽霊はオカルトではないが……いや、今はあいつの物差しを基準にする意味はないな」
結構な確信の元に俺はオカルトコーナーへと歩いていく。そこにはUMAだのUFOだのそしてUREIだのといった3大Uに関する本が割と雑多に並べられていた。
「あんま整理とかされてないのな。それぞれのUごとに仕分けられてない。つか表紙見てもわかんねぇな……それっぽいやつとりあえず漁るか」
それから俺はなんとなくピンと来たものを片っ端から運んで行った。そして10冊を超えたあたりで湊がようやくやって来た。いや別に遅れてはないんだけどな。
「え、私45分って打ったわよね?」
湊はすでに結構作業を進めている俺を見て申し訳なさそうな顔をしていた。これはいけない。
5分とかならともかく15分も早く来といて相手に余計な申し訳なさを感じさせるのは間違ってる。それは俺が悪い。なので軽くフォローをすることにした。
「安心しろ。間違ってんのはどっちかっつうと俺らだ。そもそもこうやって集まる原因を作ったのは俺だからな。早く来るのは個人的判断に基づいただけだ」
言い終わってから思った。──これフォローってより言い訳っぽいな。
「悪い、聞き流してくれ」
「え、えぇ、わかったわ。それはいいのだけれど黒薙君、1つ現在進行形で問題が発生しているわ」
「問題? なんだよ?」
俺の問いかけに対し湊は無言でとある方向を指さす。嫌な予感がし、その指さされた方向をゆっくりとむくと、そこには楽しげに本を運び机に置き、かいてもない汗を拭う八重洲の姿だった。
「あいつ、昨日の今日だぞ」
「やっぱり八重洲さんって賢いけどバカよね」
あいつ、昨日城端先生に砲丸投げつけられたの忘れたんだろうか? 忘れたんだろうな。かわいそうに。
「なぁ、昨日のアレみたいに持ってるこの本ぶつけてもいいかな?」
「貴方の投球じゃあの恐怖は再現できないでしょ? それと本なんて投げたら怒られる上に何より本がかわいそうよ。そうだわ、貴方が直接飛び込んでみたら?」
「何その自己犠牲。しかもなんでバカにされ本以下扱いされ人間ロケット推奨されたんだよ。もっと言えばそのロケット当たんねぇだろ」
絶対に失敗すると確信しているロケットなんて誰が飛ばすか。こんなもん例えるなら全部のネジがサイズ違いみたいなもんだ。そもそも飛ぶ以前の問題である。
とりあえず俺は持っていた本で軽く八重洲の頭を叩き、己の愚かしさを理解させる。叩かれたことでようやく理解してようで、自身の頭を撫でながら何かを察し、体を身震いさせた。
「よかったな、先生いなくて」
「以後、気をつけるであります……!」
妙な口調で敬礼をする八重洲は視界の彼方へと消し去り、運ばれた本を1冊手に取った。
「とにかく、手当たり次第持ってきて、部活始まったら報告しあうってのでいいだろ?」
「えぇ、それでいいと思うわ。ここで悠長に呼んでいる時間もあまりないし」
「よ〜し! みんなで本も持って行こ〜!」
元気一杯に同じ過ちを犯す宣言を行った八重洲をとりあえず叩き、俺と湊はそれぞれの教室へと散っていった。
両手が塞がっているので一瞬だけ八重洲に教室のドアを開けてもらい、そこに足を入れ込むことで、側から見ても違和感のないように演出を行う。我ながら完璧な作戦。別人だったら惚れてるね。
教室に入った俺は、一瞬注がれた『なんでこいつこんないっぱい本持ってきたんだ?』という視線に耐え、すぐ近くの自席の机に本を重ねた。
「毎度のことだが席が近くて本当に助かるわ。本はすぐ置けるしチャイムがなった瞬間帰れるし、いいことしかない。最高の席は左最後席ではなく右最後席だな。これバズるんじゃね?」
「そんなんでバズったら誰も苦労してないよ」
冷静なツッコミありがとう。だが千里の道も1歩やらとかいうだろ? つまりバズりも道もこういう小さなことから始まるのさ。……まぁSNSやってないんだけどね。
「さてと、もうすぐHRが始まるな。この本はまた後でか」
10冊にも登る本の山を、山積みの状態で机の右下に置く。ちなみに一番したのは当然だがティッシュを敷いている。俺は借りたものは状態そのままで帰さないと気が済まないからだ。
足元に本を置いた数秒後、タイミングを見計らったかのように城端先生は教室に現れた。こうして朝のHRが始まった。ちなみに本のことが気になりすぎて先生の話は全く頭に入っていないのである。




