連絡交換が難しいんだが!?
「──これが、友達追加か……」
「黒薙君、どうやら私たちはやったみたいよ、友達追加!」
「君たち、もう少し世俗に聡くさりなさいな。……黒薙、家はWi-Fi通っているか?」
唐突な質問を投げかけてきた先生。真面目な顔をしてこちらに顔を向けているということは、何か重要な意味があるのだろうか。
「回線通してますけど……それがどうかしたんですか?」
「そうか、あるか! やっぱりあると思ったんだ。君みたいなタイプが回線なければ通信料がとんでもないことになってしまうからな」
なんだろう、バカにされてる気がするのは。気のせいだよね、そうだよね?
安堵の表情を浮かべた城端先生は、なぜか八重洲を呼び出した。
「八重洲、ちょっとおいで」
「はい? 私に用ってなんだろ……」
城端先生は何をしたいのだろうか? そう思い視線を2人に向けると、先生はポケットから1つの携帯を取り出した。
「これは私がもう使っていない携帯だ。契約は切れているから屋外では基本使えないが、電波さえ届いていればLINEだってできる。1人だけ仲間外れは寂しいからな。これで家でも連絡が取れる」
もし俺がやられてたら間違いなく告白してただろうなと思うほどのイケメンムーブをかました城端先生。当の携帯を差し出された八重洲は、しばらく目をパチクリさせ硬直していたが、理解すると同時にその表情は満面の笑みに包まれた。
「……はぁっ!! ありがと〜せんせー!! 私先生大好き!!」
大の字で城端先生に飛びつく八重洲。だが当然のことながらすり抜け頭を地面に打った。
「あいたっ! 幽霊なの忘れてた……」
苦笑いを浮かべながら頭をさする八重洲は、今一度携帯を見つめると、頬を染めながら歯が見えるほどニヤついた。
「3人とも、家に帰ったら友達追加しようね! なっ君、2人のLINE送ってもらってね!」
「わかったよ。やり方わからんがなんとかするさ」
そもそもLINEを送るって意味がよくわかっていないが、まぁなんとかなるだろう。多分、おそらく、ある程度。
その後も八重洲のテンションは落ちることはなかった。
「ねぇねぇ! グループって作るの? 作るんだったらなんて名前にする? 可愛い名前にしようよ!」
「いや部活のグループだろ? 普通に探霊部だろ」
「そっか〜まぁそうだよね! あっ、ねぇみれちゃん! 今日夜LINEしてい? 先生ともやりたいなぁ! あぁもうたのすみ! ……あ、噛んじゃった」
よほど嬉しかったのだろう。八重洲は終始ニコニコとし、それこそテンションが上がりすぎて呂律が回らなくなるほど興奮していた。
「おいおい落ち着けよ。興奮しすぎてろれるが回らな……ろれっく…………舌が回らなくなってるぞ」
ああくそ! 呂律が回らん。呂律呂律……頭の中じゃ完璧にすらすら言えるってのに。
俺の呂律が回らず、挙句に諦めたことを1人逃してくれなかった奴がいる。
「ふっ、あなた今、呂律が回らないということを説明するために頑張って呂律を回していたけど呂律が回らないの呂律の部分がそもそも呂律が回らないから諦めたでしょ。滑稽ね」
「何それすげぇ」
バカにされていることはよーくわかっているのだが、それよりも今、湊が呂律という言葉を噛まずに、しかも息継ぎなしで言い切ったということに若干の尊敬の念を抱いてしまった。
「本当に国語は得意なんだな。なんで今のが一瞬ですらすらと浮かぶんだよ」
「あら、お褒めに預かり光栄ね」
湊は腰に手を当て明らかなドヤ顔を見せつけた。どうやら依頼人が来ないショックからは完全に立ち直ったたらしい。
俺はそんな様子に苦笑した後、城端先生の元へ歩を進めた。
「城端先生、ありがとうございます」
「なに、気にしないでくれ。どうせ使わずに放置していた物だ。こうして有効活用してもらった方がいいってものさ。それに、あの子だってうちの部員だ。顧問として仲間外れというのはできるだけ回避してやりたいからな」
「城端先生……」
もし俺が転校してきた学校にこの先生がいたならば、仲間外れにされることもいじめられることもなかったかもしれない。そんな意味のない仮定を考えても詮無いというのに。
「君だって私と似たタイプだろ? 近くでしょぼくれた顔をされては、放置なんてできないタイプだ。だからこそ君をこの部活の部員に選んだし、八重洲も君の元へ来たのだろうな」
八重洲がしつこいくらい話しかけ、湊は苦笑いを浮かべている。しかしどこか楽しそうにも見えた。そんな光景を見ながら、俺は、今城端先生から受けた評価を反芻していた。
「俺、そんな人間なんすかね?」
「ふふっ、まぁ自分ではわからないものさ。だからこそ、君をそう評価してくれる人を頑張って繋ぎ止めたまえよ。これは社会に出ても必須なスキルだからね」
「さすが社会人、重みが違いますね……まぁ、頑張ります」
俺の言葉を聞き終えた城端先生は、穏やかな顔で微笑むと、俺の頭を数度優しく叩いた。まるで、『頑張れ』と言われているように感じた。
その後先生は徐に八重洲、湊の元へ手を叩きながら歩いて行った。
「今日はもう解散だ。積もる話は帰ってからでもすればいいさ」
「えぇ〜、もうちょっと話てたいよ!」
「誰が鍵を閉めると思ってる? 君たちが帰らないと私だって帰れないんだ。ほれっ! 帰った帰った!」
左手の指で鍵を振り回し、右手で邪魔者を払うように手を動かす先生。その表情は本当に帰り違っているように見えた。
「帰りましょう八重洲さん。LINE、今日するんでしょ?」
「……うん、わかった。なっ君すぐ帰ろぉ〜! 早くLINEインストールしなきゃ!」
目を爛々と輝かせながら接近する八重洲にたじろぎつつ、俺は机にかけたカバンに手をかける。
「わかったから近づくな。んじゃあ先生、湊、また明日」
「またね〜!」
「気をつけて帰りたまえよ」
「えぇ、また明日」
こうして今日の部活は終了し、別館を出る。外はすでに夕暮れ模様で、赤く染められた地面や木々は趣が感じられる。……とか言ってる俺が趣があると思う。いわゆる、可愛いと言っている女子はそう言っている自分が可愛いと思ってる現象だ。
「そういえば、テストの話全然しなかったな。まぁいいんだけど」
「そういえばそうだね。だったらLINEでその話す──ん? あっ、クラスのイケメン君だ」
八重洲が指さしイケメン君といった男、見てはいなかったが誰だかわかった。そのイケメン君こと剱は、こちらに気が付き、いつものように話しかけてきた。
「やぁ、黒薙君。部活終わりかい?」
「あ、はい……」
いずれタメ口で話せるようにとは言ったが、できる気がしないな。やっぱ意識して使わねぇと。
「相変わらず硬いなぁ。ま、いいけどね」
だらだらと大量の汗を垂れ流す剱は、タオルで汗を拭いながら小さく息を吐き、何やら神妙な面持ちでこちらに訪ねてきた。
「なぁ、探霊部ってさ、何をする部活なんだ?」
そういえば何げに部活について訪ねられたことはなかったな。しかしなんでだ?
「コンセプトとしては、幽霊や幽霊について悩んでいる人の相談に乗り、それを解決するって感じです……感じだ」
「そっか……なぁ、降霊術とかできたり……する?」
降霊術──死んだ人間の魂を降ろして占いをしたり対話をすることができる術だ。いたこや、創作ではネクロマンサーと呼ばれたりもする。
「降霊術ねぇ。湊ができるのは霊を見て会話することくらいだと思うが……まだ別館にいると思うんで聞いてきましょ……聞いてこようか?」
多分できないとは思うが……そんなことよりなんで剱は霊を降ろしたいんだ? 肉親が亡くなったとかその辺だろうか? さすがにそんな質問は口にできないが。
剱は少し考え込んだが、すぐにいつものイケメンスマイルに戻った。
「いや、やっぱりいいよ。ありがとね、気を遣ってくれて。優しいんだな意外と」
「意外とって……最後に言うことによって強調されるからやめろ。あんまり優しくなさそうだろうが」
「ははっ、確かにそうだ。おっと、もう部活に戻らないと……それじゃあな! また明日。明日からは最後みたいにタメ口で来てくれよ!」
そう言って爽やかに手を振りながら去って行った剱。汗が夕日に照らされ、まるで輝いて見える。さすが剱、神にすら愛されているようだ。
「ってかさ、俺タメ口なってた?」
「うん。『やめろ』とか『だろうが!』とか言ってたよ」
八重洲は俺の真似をしながら再現してくれた。それはまたもや気怠げでやれやれしており、気をつけようと思いました。
こうして無駄なダメージを負った俺は家路に着く。そして家に入るや否や、八重洲に急接近された。
「ねぇねぇなっ君! Wi-Fi教えて!」
「わかったわかった。そういえばその携帯のパスワードとか知ってんの?」
アプリを入れようにもそれがわからないのであれば意味がない。そう思っていた矢先、八重洲は得意げにとある紙を携帯とともに取り出した。
「ふふ〜ん。そこはさすがの城端先生だよ。ちゃんと必要な番号は全部メモしてあった」
「そりゃ用意周到なこって」
ほんと、あの人にはやってもらいっぱなしだ。まじで頭が上がらない。
城端先生の聖人君子っぷりに感嘆しながら、八重洲の携帯の設定を済ませ、必要なものは全て済ませたことでようやく腰を落ち着けることができた。
「やった〜!ありがとうなっ君!」
「はいはい、どういたしまして」
ベットに横たわりながら携帯を眺める。初めて家族、そして公式垢以外で3人友達追加をし、俺には一生縁がないんだろうと思っていたグループに参加をする。
『探霊部 (4)』
こんなたった数文字に若干口角が上がってしまい、隠すようにうつ伏せになった。
「そういえば湊に降霊術できるか聞いてみるか」
文章を打ち込み、残るは送信ボタンを押すだけとなった時、とある問題が発生する。
「……ヤベェ、なんか緊張する」
なんて事のないただの文章。見られて恥ずかしいことなど何も書いていない、だがそれでも、女子と初メールと言うだけで異様な緊張をしてしまうのは隠キャ故なのだろうか。
「漢字とか間違ってないよな? 誤字脱字は? 文章としておかしくないか?」
まるで小説でも書いているかのように何度も推敲し、問題がないことを確認したところで、ようやく意を決し送信ボタンを押した。
「ふぅ、連絡1つでこんなに疲れるとは。もうすでにLINEがいやになってきた」
ぼやきながら画面を見ると、すでに既読がついている。と言うことはあと数秒もすれば返信が来るだろう。そう思い携帯を側に置いたが、なぜか待てど暮らせど返信がない。もうすでに既読がついてから30分だ。
「もしかして俺なんか失礼な内容送った? それとも俺なんかのLINE返信するなんて面倒だから放置していて、後日『ごっめーん寝てたー!』とか『電源切れちゃってぇ』で逃げられるというあのパターン──」
その時、俺の携帯に通知が届く。急いで画面を確認すると、そこに表示された文章とは……
『出来ないわ』
「簡素っ!」
したこともないタイプのツッコミの後、なんだか馬鹿馬鹿しくなった俺はベットに潜り込み、そのまま目を瞑った。
ちょうどその頃、湊玲衣は──
「私に送った文章変じゃなかったかしら? 何度か推敲した結果ものすごくシンプルになってしまったけれど、失礼に当たらないかしら……なんで既読がついているのに返信がないの? 普通『分かった』くらい返さない? もしかして本当に失礼で怒ってるとか……どうしましょう」
湊が枕に顔を埋めていると、携帯の通知音が響いた。
「なんだ、ちゃんと返信くれるんじゃない。よかった私が失礼だったわけじゃなくて……って、八重洲さんか。なんであの子文章を分割して送ってくるのかしら? 読みづらいのだけれど」
『みれちゃん!』『起きてる?』
この文章に起きてると返信し、ひと段落をつこうとした湊は、この返信を後悔する。
再び通知音がなり、湊が画面を見た瞬間、その通知数が一気に20を超えた。
「ヒィっ! 何これ怖い! えっと……今日のテスト、いや部活? 城端先生? どれを返せばいいの!? ちょっと八重洲さん落ち着いて! 1件1件返していくから一旦やめてぇ!」
怒涛の勢いで増え続ける通知に涙を浮かべる湊。そして八重洲のハイテンションが夜中まで続いたことにより、2人は奇しくも同じ叫びを上げた。
「「八重洲 (さん)うるせぇ (うるさい)!!」」
結局2人は翌日、目の下に隈を作りながら登校することになった。




