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初めて友達を追加したんだが!?

 テスト返却が終わり、若干重い足取りで部室へと向かった。恐らくこのあとはテストの結果がどうだとか言う話になるだろう。おら全然ワクワクしねぇぞ。


 全く気乗りしないまま廊下を抜け、別館に向かうための渡り廊下を歩く。すぐ近くには体育館があり、いつもこの時間にはバスケ部やバトミントン部などの熱気あふれた練習ボイスが聞こえてくる。

 そういえば(つるぎ)はバスケ部だったな、とどうでもいい感想を呟きながら、俺は静かなる部室へと足を運んだ。


「すごい頑張って練習してるね」

「ん? あぁ特にバスケ部、というか剱はすごいぞ。2年にしてバスケ部期待のエースだ。聞いた話しだとすでに3年のレベルを超えてるってよ」


 自分で言っててなんだよと思う。めちゃめちゃな才能があって、しかも努力もする。勝てっこない。

 マイナス要素だらけの自分と比べる気もなく、とぼとぼと歩きようやく部室へと到着する。もうここからはあいつのことは忘れよう。ノックをし中へと入った。いつものように座って本を読んでいる湊にとりあえず挨拶をする。


「おぃ〜っす」

「やっほぉみれちゃん!」

「あら、こんにちは八重洲(やえす)さん。それと極悪人さん」

「極悪人ってなんだよ。俺は地球のために極力喋らず二酸化炭素を吐き出さないでおこうと考えているくらい善良な男だぞ」


 他にも、出来るだけ外に出ないことにより靴を買い替える頻度を減らしたり、運動をしないことで余計なシャワーの水を出さないと言った配慮もしている。


「でもなっ君ガンガンエアコン付けたりしてるよね?」


 何こいつ、すげぇ近い距離からキラーパス飛ばしてきたぞ。バスケしてる時の俺かよ。


「……と、言うように、人の言葉を鵜呑みにしてはいけないことはわかったな。で、なんで俺が極悪人なんだよ」

「あからさまに逸らしたわね、芸術的だわ。なぜ貴方が極悪人なのかですって? そんなの決まっているわ。貴方、私のこと盾にして逃げたでしょう? あの後恐怖のせいで焦って転んだんだから」


 あぁ、なんとなく理解した。こいつが言っているのはあれだ、今朝の件だ。置いていって1人逃げたことを根に持っているらしい。


「意味は分かったが、あれ湊のせいだぞ。正確には(みなと)玲衣(れい)という偶像のせいだ」

「偶像? どういうことかしら?」


 一瞬、偶像という言葉の意味について問われているのかと思ってしまった。だが俺は悪くない、湊ならあり得なくはないと思わせた方が悪い。


「容姿端麗成績優秀、運動神経はよく孤高を貫く完璧超人。それが生徒の抱き、俺が抱いていた湊玲衣のイメージ、偶像だ。そんな存在に容姿普通成績半端、運動神経は悪く孤独になってる歪不足人がタメ口で話してたんだ。あん時の周囲の『なんだお前?』って空気気づかなかったのか?


 長々と自論を語った後湊に顔を向けると、なぜか彼女は目を丸くしながら呆然と座り込んでいた。


「え、何? 俺そんな変なこと言った?」

「……ねぇ、貴方から見ても私はそう見えてるの?」


 なんだその質問。どう答えるのが正解なのだろうか。肯定は嘘になるし、かと言ってこんな質問をしてくるということは何かあるのだろう。

 ……わからん、もう思ったまま答えよう。それで事故ったらその時考えりゃいい。


「今こうやってお前を見て、んな偶像持てるやつはあれだ、そりゃそいつを見てるようで見てねぇよ。洗脳というか盲信というか、まぁそんなんだ。少なくとも俺が見てる湊玲衣は、容姿端麗以外は全部当てはまんねぇポンコツで、全然特別じゃない普通の美人女子高生だ」

「……そ、そう…………」


 その言葉を発した瞬間、数秒時間が止まったように感じた。原因は確実に俺の発言だ。どこの部分かも理解している。


「なっ君さ、時々たらしになるよねぇ。しかも素で」


 八重洲は俺を揶揄うように目を細めニヤニヤとしながらにじり寄ってきた。とてもうざいが反論できない。なぜならこうなったのは俺のせいなのだから。本人目の前にして可愛いと言ってしまった。いくら俺が女子との会話にられていないと言っても理解できる。これはやらかした。


 湊は白い肌を赤く紅潮させ、一端の女の子らしく照れているように見える。これはまずい……同じ部活同士で、しかもその気はないのにこの空気はまずい! とにかく俺は湊の様子を伺ってみることにした。


「あっ、えっと……そうだ湊! テストの結果はどうだった?」

「へっ? あ……こ、国語は90点よ。社会もだいぶ取れたわ」

「数学や理科とかは?」


 八重洲の純真無垢な表情で放たれた右ストレート。これはかなり効いたらしく、あからさまに顔を背けた。


「……そ、そんなことはどうでもいいでしょ? そんなことより、探霊(たんれい)部をせっかく立ち上げたのに、意外と誰も来ないのね。みんな恥ずかしがってるのかしら?」


 そもそも胡散臭くていく気が出ない、という選択肢はないのな。

 だがまぁ、湊の言っていることも確かにとは思う。まだ始まって数日とはいえ、誰かが来る気配も予感もない。このままだと実績何もないってんで廃部にならないか? 


 などと一抹の不安を抱えていると、ガラガラと扉が音をたて、部室に1人の影が入ってくる。もしかして依頼人──


「やぁ皆の衆。何か進展はあったかね?」


 その影の正体は我が部の顧問、城端(しろはた)先生だった。まぁうん、そんなこったろうとは思ってたよ。

 だが約1名、全くそう思っていなかったやつがいた。


「はぁ、先生ですか……依頼人かと思ったじゃないですか。なんでそんな淡い期待をさせて落とすのですか? もう少し気を遣って入るなどできないのですか? それでも教育者なのでしょうか」


 湊は目のハイライトが消え、割とな大きさのため息をついた。そんな彼女の様子に、先生は困惑している。


「……なんかよくわからんが、ごめん。なぁ黒薙、これ私悪いか?」


 先生は苦笑いを浮かべばがらこちらに訪ねてくる。うまく弁明できるかわからんが、とにかく正直に言おうじゃないか。


「悪くないですよ。顧問が部活に来るなんて当たり前じゃないですか」

「そ、そうだよな! そういうことだ湊。君は少し反省を──」

「まぁただ、『先生かよ……』とは思いましたけど」

「なっ……! 私もうやめようかなこの部活」


 先生の目からもハイライトが消え、4人中2人も生気を失った。そう広くもない部室に重い空気が流れ出す。空気を変えねば。


「そういえば先生、何か用とかあったんですか?」

「ん? あぁそうだった。今後部活動をやるにあたって連絡先を交換しておこうと思ってな。全員LINEはできるか?」


 その言葉を聞いた瞬間、気持ちが沈み落ち込んでいた湊の目に光が灯った。そして颯爽と鞄から携帯を取り出し、満足げな顔で自身のQRコードを俺たちに向けた。


「先生の言っていることは至極真っ当ね。私はあまり友達登録をするタイプではないのだけど、部活の連絡に必要ということなら喜んで登録させてもらうわ。さぁ貴方たち、早く読み取りなさい」


 携帯片手に笑みを浮かべる彼女は、なんというか、ものすごく意気揚々としていた。多分こいつも俺と同様LINEの友達がいないのだろう。さぁ〜あて、公式垢はいくつかな? 


 俺はカメラを起動してコードを読み込む。そして出てきたのは『湊玲衣』と表記されたアカウント。ちなみに画像は初期の顔無しのあれだ。これだけで普段湊がLINEをしていないのだと確信できた。

 それにしても、家族以外と相互登録になったことがないから変に緊張してしまう。それは湊も同様らしく、自身の画面と俺の顔を交互に見つめていた。


「よし、じゃあ登録するぞ湊」

「えぇ、歴史が動く瞬間ね」

「君たちの歴史浅すぎるだろ」


 呆れる城端先生は他所におき、俺は軽く深呼吸をする。そして、携帯を持たぬ手を大きく振り上げた。


「おおおおおおお──りゃ!」


 勢いよく押し出された押し込まれた指は『追加』の文字を的確に押し──


「あっやべ、画面暗くなった……」


 歴史が変わる瞬間は、機械の眠り(設定)によってぐずぐずになった。そして場が白けてきているのをひしひしと感じながら、俺は『追加』の文字を押すのだった。

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