憧れと嫉妬の視線が怖いんだが怖いんだが!?
久々にうまい手料理というのを食った翌日、もうすっかり八重洲がいる生活のも慣れ、家を出るときに確認を取るまでになった。
なんで俺学校行くのに八重洲の準備を待ってんだよ? あいつ支度することなんてあんのか幽霊なのに。
「なっ君もう完全に私慣れしてるよね」
「しょうがないだろ、ここまで人間味がありゃ幽霊扱いして怖がる方が不自然だ」
俺の漕ぐ自転車の後ろに乗り喋りかけてくる八重洲。ここでも慣れの兆候を感じさせる。
以前は重さがないにも関わらず乗られてる感で進みが遅くなったが、今やなんの影響もなくなっている。1人で漕ぐのと何も変わらない。
「そういえばなっ君、今日もあの……えっと、ゴーストなんちゃら部? 行くの?」
「探霊部な。お前城端先生に引っ張られすぎだろ、まぁ確かに印象だけならぶっちぎりだが」
ツッコミこそしたが気持ちはわかる。俺も食後某ポケットサイズのモンスターゲームをやっている時、ゴーストという単語に過敏に反応してしまった。しかも何が悔しいって、ゴーストタイプを見つけた時「おっ! ゴーストだ!」と一瞬テンションが上がってしまったことだ。
「とりあえず行きはするが、ぶっちゃけやることはないだろう。だって幽霊で困ってる奴の話なんて聞いたことねぇもん」
ってか来ても困る。
「おしゃべりしてるだけでも楽しいじゃん! みれちゃん見た目と違ってお馬鹿キャラだし」
「おバカってあいつの前で言ってやんなよ。多分言われたらまた魂抜けるから」
──湊玲衣。容姿端麗成績優秀で運動親衛抜群、他人を寄せ付けないオーラを放ち、常に凛とした完璧少女。
と思っていたし、第3者的に見ればまだそうなのだろう。だが実際はほぼ真逆。成績は悪く運動もできない、理解できないことがあるとすぐに動揺し、他人と仲良くなりたいと望んでいる。容姿はまぁ、うん。
「そういや、今日テスト返却されるって言ってたな。ってことはあれか、今日の部活はテストの見せ合いとかになるのかもな」
「へぇ〜いいね! あれ楽しいよね!」
楽しい、ねぇ。そりゃお前は頭いいから楽しいだろうよ。だって見るもの全て下の者だろ? 見下すのは楽しいに決まってる。
「成績イマイチの奴にとってあんなのは地獄の行事でしかねぇんだよ。しかも俺はこういうタイプだろ? 頭良くないと引かれるんだよ。これが突き抜けて馬鹿ならネタにもなるが、そんなレベルでもない。1番面白くないってやつだ」
たまにいるだろ、すげぇ頑張ってるくせに頭悪いやつ。いわゆる全速力の馬鹿。多分湊はこのタイプだと思うのだが。
とにかくこれは笑えない。笑うこともいじることも、そして慰めることしかできない。これは双方言い思いがしないパターンだ。因みに俺みたいな嫌われ者もここに該当する。
「そうかなぁ、みんなで盛り上がれるお祭りだったけどなぁ」
「あそこで盛り上げる奴って大体毎日がお祭りだしな。そんな毎日頭ん中で花火上がってるようなのには理解できんだろうさ、陰キャの気持ちはな」
そっと自分の点数を見て、そっとカバンにしまう。そして1人でもやもやしながらその後の授業を受け続ける、それがテスト返却だ。あれは過去の自分に向き合う時間だと思っている。それをしない陽キャどもは言ってしまえば不誠実だ! 不真面目だ! 不道徳だ! という世界になればいいなと思いました。
こんな馬鹿な会話をしているといつの間にか学校に到着していた。誰かと話していると時間が早く過ぎる。これは俺が最近発見した現象だ。近々学会で発表しても問題ないレベルの現象だと思っている。
「そういえばなっ君すごい落ち着いてるけど緊張とかしないの? 大体みんなテスト返されるってなったら浮ついてるけど」
「俺だって返却前は浮つくよ。何点かなぁとか考えて心臓バクバクだ。だが今回はどこぞの幽霊さんが全部答え合わせしてくれたからな。心臓も通常営業だ」
「あ、そっか」
いつも通り自転車を置き、学校に入る。そしてこちらもいつも通りクソ長い階段を登らなければという事実にため息をついた。
その時、背後から1人の女子に声をかけられる。
「──あら、あなたも自信がないの? テスト」
その声に反応し背後を振り返ると、そこには残念美少女さんがいた。腕を組み姿勢良く佇む姿は、正体を知らねば確かに憧れを抱いたかもしれない。だが残念なことに俺はすでにその幻想を破壊されている。
「あ、みれちゃんおはよう!」
「なんだ湊か」
「おはよう八重洲さん。それにしても、なんだとは失礼ね。せっかくモーニングトークをしてあげたのに。私これでも話しかける前に10回イメトレしてきたのよ」
「いやトレーニングしすぎだろ。せめて7回にしろよ」
「なっ君そのツッコミ的外れだと思う」
八重洲は苦笑いを浮かべ俺たち2人に対し憐れんだ表情を浮かべてきた。これだから陽キャは。話しかける前のイメトレは普通するだろ。もし失礼なことを言ってしまったらどうするつもりなんだ。
ただ10回は多いと思うが。しかも10回考えた結果があれかよとはすごく思う。
「というか湊、お前もっと震えるのかと思ったが案外普通だな」
「ええ、それはそうよ。終わっているとわかっているものにいちいち動揺や不安は感じないわ。飛行機が墜落するときに動揺や不安を感じると思う? その時感じるのは恐怖と絶望だけよ」
つまりあれか、こいつは今恐怖と絶望を感じているのか。大変だな。
「そういえば貴方達、今日は部活くるの?」
「行くんだよねなっ君?」
「まぁその予定だな。と言っても対して活動なんて──ん?」
このときようやく気がついた。他の生徒が俺たちを見ながらざわざわと小さな声で話をしている。そしてその視線は湊よりも俺に集中しているようだった。
そして理解。彼らはあれだ、なんでこいつが『湊さん』と話して、しかも『湊』なんて呼び捨てにしてるんだと言いたいのだろう。
しかも何が厄介って、その目が好奇な者ではなく、憎悪や嫉妬という点だ。彼らに背中を向けている湊は気づいていないようだが、すごい目をしている。これは逃げねば。
「悪い湊、さん。俺急ぎの用があるんだった! じゃあ行くな、じゃなくて行ってきます!」
出来るだけ全速力でかけていく。八重洲がぶつくさと文句を言っていたが知るか! これは死活問題なんだ。
「あっ……行ってしまったわ。はぁ、なんで私第一声であんなこと言ってしまったのかしら。それに最後『また部活でね』っていえなかったし。ほんとだめね私──ん?」
ここでようやく背後の声に気づき、群がっている生徒たちに気がついた湊玲衣は、恐怖と怒りを孕みながら階段をダッシュで駆け上がった。
「ひゃい! (も、もしかしてあの人これ見て逃げ出したの? さ、最低! 言ってくれればいいのに!)」
自分が原因だと理解していない彼女は、皆の見ていない場所で躓いた。




