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幽霊が晩御飯を作ってくれたんだが!?

 家に帰り着いた俺は、いつものように虚空に向かい挨拶をし、面倒だが夜ご飯を作るためキッチンへと向かった。


「さて、今日はなに作っかなぁ?」


 冷蔵庫を開くがなにもない。いや、正確には牛脂だけある。いやこれでなにを作れと? 野菜室を華麗にスルーし冷凍庫を開ける。牛丼と唐揚げの冷食があった。先程の牛脂に比べればご馳走だ。


「うし、今日も張り切って解凍するぞ〜、おー」


 テンション爆上げで唐揚げを皿にうつし、電子レンジの扉を開けた時、八重洲(やえす)が酷く呆れながらこちらを見ていたのことに気がついた。


「なんだ、嫉妬か? 食べられないのは同情するが、俺は気にせず食うぞ」

「冷凍唐揚げ3個で嫉妬しないよ。そうじゃなくてなっ君、その組み合わせ何日目?」


 何日目と言われてもなぁ? まだ3日目とかだろ。


「別にいいだろ? 食い飽きてないんだし」

「飽きた飽きてないの話じゃないよ、栄養全然取れてないじゃんそれ」

「栄養ねぇ。んなこと言われても1人暮らしで栄養まで考えてるやつなんてそんないないだろ。今の時代『早い安いそこそこ!』 1人料理なんてこれでいいんだよ」


 そこまで味を求めていないのであればマジで冷食でいい。というか最近の冷食は味すらいいからな、手料理が勝てる要素なんてだんだん失われている。


「本当になにもないの? ちょっと冷蔵庫拝見……うわ、牛脂」


 冷蔵庫を覗き見た八重洲は牛脂しかない惨状に軽く引いていた。そしてその牛脂を手に取り、なぜか冷蔵庫から出した。

 続いて俺がスルーした野菜室を開く。野菜の王もやし様、女王ジャガイモ妃をはじめ、市民キャベツを取り出した。


「う〜ん、ジャガイモはいらないかな」

 そう言って徐にジャガイモ妃を野菜室に戻す八重洲に、俺は当然注意する。


「おい八重洲、それは女王に対して失礼なんじゃないか?」

「ん、女王? なんの話?」


 とぼける八重洲に、刻々と説教をする。


「もやし王が残るのは当然として、王女を差し置いて市民を残すってのはいかがなものかと思うぞ。もし王女を引きずり下ろしたいならせめて! せめてキャベツも戻すべきなんじゃないか?」


 ここまで聞いてキャベツを残すバカはいないだろう。だってキャベツだぜ? キャベツは残さないって。

 すると、理解したはずの八重洲は先ほどよりもさらに呆れ返った、というより憐れんですらいる瞳を俺に向けた。


「なっ君、単純にキャベツ食べたくないだけだよね?」

「なっ! 貴様なぜそれを!」


 俺は酷く慟哭する。この真実は家族しか知らないはずなのに! それをものの数分で見破ったというのか? 恐ろしい子!


「あれでわかんない方がバカだよ。ってかなに王とか王女とか。まあいいや、ご飯作るからあっち行ってて」


 なおも呆れながら俺が皿に出した唐揚げをしまい、逆に牛丼を解凍し始めた。


「え、お前料理できんの? いや触れるのはわかるがそもそもの話な」

「うん、家ではよくやってたからね。あまりにも物が少な過ぎて料理感はないけど、そこそこのものは作れると思うよ。この体じゃ味を感じないから味見はできないけどね」


 そう言いながら牛脂を熱したフライパンに投入し始めたと思えば、キャベツを雑多に切りそこに投入した。


「多分5分以内にできるからちょっと待っててね」

「マジか、冷蔵庫見てから全然時間たってねぇのにもうなに作るか決めてんの? 俺なんて悩みに悩んで10分以上考えた後諦めて寝るのに」

「ははは、ズボラだねぇなっ君」


 苦笑しつつ、キャベツを塩胡椒で味付けしながら炒めていく。俺は素人だからわからんが、普通より長く炒めている気がする。そして解凍し終えた牛丼を開封し、ご飯の上にでも乗せるのだろうと思った矢先、なんと炒めたキャベツの入ったフライパンに投入したのだ。


「お、お前なにやってんだ?! そんなん見たことないぞ!」

「そう? うちではよくやってたんだよ作るのめんどくさい時に。名付けて『牛丼野菜炒め』!」


 漂ってくる牛丼、そして牛脂の匂いが俺の口に大量の唾液を錬成した。やばい、普通にうまそう。

 そして本当に5分後、八重洲命名牛丼野菜炒めが食卓に並んだ。


「……すげぇ、あれでこんなうまそうなの作れるなんて」


 牛脂の香りが鼻腔を通り、食欲をそそる。これは素直にすごいと思った。


「その、ありがとな八重洲。助かった」

「お礼はいいから、ほら! 食べて食べて!」

「では、いただきます」


 俺は徐に料理を口に運び、しっかりと噛み締めた。瞬間、俺はなんの面白みもないセリフを呟いていた。


「……うま」

「ほんとっ! よかったぁ〜、味見できてないから不安だったんだよね。しょっぱくない?」


 ほんとなんの面白みもない感想に満面の笑みを送ってくれる八重洲。不意にドキッとしてしまう。


「あぁ、ちょうどいいよまじで。いや、ほんとすごい」


 しかもなにが素晴らしいって、そりゃ味もさることながら、キャベツの食感だ。俺はシャキシャキと自分を主張してくるようなあの食感が大嫌いなのだが、その食感がほとんどない。そして俺はようやく理解した。


「もしかして、長いこと炒めてたのって、食感をなくすため?」

「あ〜うん、ほんとはシャキシャキの方が美味しいと思うんだけど、なっ君嫌いそうじゃん? だから焦げる直前まで炒めまくった。どう? 成功?」

「うん、大成功! すげぇありがたい!」


 正直めちゃめちゃ嬉しい。自分の好みに合わせてくれた。しかも言ってもいないのにだ。これにより一瞬ホームシックになりかけたのは言うまでもない。


 そして半分ほど食べた頃、気付くべきことにようやく気づいた。せっかく作ってくれたと言うのに彼女は食べれていないのだ。それはあまりにも残酷ではなかろうか。そして俺はあることを即決した。


「八重洲、お前俺の体に入れ。んでお前もこれ食べてくれ。……って、俺が作ったんじゃないんだが」


 そう言って目線を八重洲に向けると、彼女は目をパチクリとさせ、困惑の表情を浮かべていた。


「え〜っと、なんで?」

「なんでって、1人だけ食べてねぇってのも気が引けるし、そもそもお前が作ったんだからお前が食べる権利は当然あるだろ? それと……」

「それと?」


 前屈みになり俺に顔を近づける八重洲。すでに背もたれは俺の背中にピッタリだ。この状況も、そして今から言う言葉も小っ恥ずかしいが、こいつに食べさせるには言うしかない。

 俺は軽く深呼吸をし、負けじと身を乗り出した。


「──この味を、お前と共有したいんだ」

「…………ふぇ?」


 あ、言う内容間違えた。同じもの食って感想言い合おうぜくらいのことを言うつもりだったのに。これじゃちょっと気持ち悪いな。

 体が熱い、多分すごい赤面していると思う。そして直視できないがおそらく彼女も──


「……悪い、ちょっと間違えた」


 このまま突き進むか迷ったが、このままいくと今後に影響しそうだったため訂正をした。自分勝手だとは思うが申し訳ない。

 どんな反応をされるかわからず、恐る恐る八重洲を見ると、なに言ってんのこいつ? みたいな呆けた顔をしていた。


「えっと、八重洲?」


 不安全開で名前を呼んでから数秒間は変わらず呆然としていた彼女だが、突如吹き出した。


「……ふふっ! ははははははっ! なっ君締まんないなぁ!」

「う、うるせぇ。俺が一番わかってんよ」


 しばらく大笑いを続け、ようやく落ち着いた八重洲は、一度深呼吸をした後優しく微笑み言葉を紡いだ。


「それじゃあ──いただきます」

「はいよ」


 こうして俺の意識はプツリと途切れ、再び戻った時には先程までさらに乗っていた料理は消え、腹は妙な満腹感を感じていた。そして先程同様時彼女は目の前にいる。


「どうだった?」

「そうだねぇ、冷めてたのと、ちょっとしょっぱかったかな? なっ君濃いもの食べすぎなんじゃない?」


 肩肘をつきながら感想を述べる様子は、嫌になる程母親を想起させた。それと同時に安心感も感じてしまう。


「んじゃ、俺皿洗っとくからテレビでも見て休んどけ」

「うん、それじゃあお任せするね」


 そう言って彼女はテレビの電源をつけ、バラエティ番組を見始める。そして俺は冷たい水に耐えながら食器類を片していった。


「やっぱなっ君優しいよ」


 テレビの音に水の音、冷たいとつぶやく俺の声に遮られ、彼女の声は届かなかった。


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